コンテンツ化された苦悩

憎み憎まれて生きるのさ

23歳ニートの人生がダメになっていくドキュメンタリーです

「籠の中の乙女」「ロブスター」の感想など

 女の子と映画見に行くことになった時は、どの映画をチョイスするかによって今後の関係が左右されるといっても過言ではない。

 デートムービーという言葉がある。

 それさえ引き当てれば2人の中も急接近間違い無しのハートフルな映画をいかに選ぶべきなのか。ここで映画好きとしてのセンスが試されるわけ。

 ひょんな事から久しぶりに女の子と遊ぶことになってニートは張り切って情報収集した。どうやらヨルゴス・ランティモス監督の二本立てがキネカ大森でやっているらしい。キネカ大森は大森にある名画座で、東京の大学行っている時にたまに通ってて、ニートになってからめっきり足が遠のいてしまった懐かしの地だった。遠のいたわりに半年くらい前に3枚綴りの名画座回数券を買っており、そのラスト1枚が残っていて期限が3月の末に切れそうだったので、このまま使わぬまま腐らせるのも忍びないと思い、遊びに行く女の子に「キネカ大森でやっている「籠の中の乙女」と「ロブスター」見に行こう」と送った。「いいね」と返信がきた。この映画が2人の中を取り持ってくれるような素敵な映画であったなら、俺にもようやく春が訪れるかもしれない。その時はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨルゴス・ランティモス監督の作品はデートムービーではなかった。

 具体的にどの辺がデートムービーではなかったのかというと、冒頭5分足らずで全裸の男女がジョイントするわ、猫や犬が惨殺されるシーンがあるわ、性描写が露骨すぎてボカしが入っているわ、ところどころ目を背けたくなるような暴力シーンがあるわで「THE 異性とデートで一緒に見るべきではない映画」という感じであった。見に行きたいと言い出した俺はともかく興味もなかった女の子からしたら苦痛以外の何物でもないだろう。性描写が露骨すぎるのはちょっと本当にやめてほしかったというか。女の子誘って行った俺が悪いのかもしれない。

 小学生の頃に家で両親と一緒にキューブリック監督の「時計仕掛けのオレンジ」を見たことを思い出してしまった。あの時は冒頭数分でレイプシーンがあって、父親がテレビの前に仁王立ちして隠していたっけな。懐かしい。そのあとの「雨に唄えば」のシーンで強制停止させられたんだった。あの時もものすごく気まずかったけど、まだ肉親でビデオだったからよかった。今回は他人で2本立てだったから更にキツかった。映画館の闇の中で俺、顔真っ赤。何が恥ずかしいかって「こんな映画を日常的に好んで見てるやつ」だと思われてないかしらといういらぬ心配をしてしまってかなわんね。「こういう映画なんてほとんど見ないから」と弁解したくなった。今まで映画館で見た映画の中で1番エロかったのはラース・フォン・トリアー監督の「ニンフォマニアック」と監督知らんけどいつかパルムドール取ってた「アデル、ブルーは熱い色」くらい。エロい映画だって身構えていけばよかったけど、全然覚悟が足りなかったせいですごく恥ずかしかった。R指定ついてるのは知ってたのに馬鹿!俺!

 

籠の中の乙女

(あらすじ)
ギリシャのとある一家。息子(クリストス・パサリス)と2人の娘(アンゲリキ・パプーリァ、マリー・ツォニ)は、しゃれた邸宅に幽閉され、育てられてきた。ある日、父(クリストス・ステルギオグル)が成長した息子のためにクリスティーナ(アンナ・カレジドゥ)を家に入れる。しかし、子どもたちが外の人間に初めて触れたことをきっかけに、一家の歯車は少しずつ狂い始め……。(以上、シネマトゥデイより)

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 家から子どもを出さないために親がめちゃくちゃな事を教えて子どもたちに信じ込ませるっていうパッと見た感じコントみたいな設定。コントみたいなギャグ。「【海】という単語は革張りのソファのことです。」とか延々と単語の意味をぐちゃぐちゃにした教育テープ聞かせたり、猫を超危険な動物だと思わせるために血糊で怪我したふりしたり、親の言うことをちゃんと聞くとよかったシールみたいなのがもらえてその数を兄妹で競わせたり、犬歯が生え変わらないと大人になれないと教えたりしていた。登場人物も10人足らずだし、大部分のシーンが家と庭で撮影されてて演劇っぽいかなとも思った。見る前からこのストーリーに興味そそられてて、まず「子どもにデタラメなことを信じさせて育てる」っていう行為がものすごく面白そうで期待値が高まった。たとえば「サンタさんがクリスマスイブにプレゼントを持ってきてくれる」とか「赤ちゃんはコウノトリが運んで来てくれる」とかそういった親が子にファンタジーな嘘をつく場面て日本でも往々にして存在するわけじゃないですか。ああいう嘘って大人になる途中で自然と嘘に気づいていくからいいけど、もし外界と接触させずに育てたらそういう世界観をずーっと自分の中に抱えて生きていくことになっちゃうわけで。それって実はめちゃくちゃ危険なことなんじゃないのかと思いました。ただ、危険であると同時に非常に魅力的だなっていう。ワクワク感と不気味さのある設定だと思ったんだけど本編見てみたら「おぞましさ」100%でした。ふつう親が子供を自分の好きなように洗脳しながら育てるとすると「いつまでも純真でいてくれたらいいのに」って発想から「コウノトリ」的な嘘で性的なものをなるべく遠ざけようとすると思ったんだけど、開始5分で父親が長男に性欲処理の女性を斡旋するシーンがあって早々に観客にボディブローかましてきますわな。濡れ場の撮り方もすげーあっさりしててそれが逆に怖い。ほんとに「処理」って感じ。血が通ってないというか、昆虫の交尾みたいだった。子どもたちと父親は目離したら次の瞬間何しでかすか分かんない怖さがあってそれが90分ずーっと続いてしんどかった。長女が映画のビデオを親に隠れて見たことをきっかけに外に逃げ出すことになるんだけど、気が狂ったように映画の1シーンを暗唱したり真似したり踊ったり、でも生まれて初めて映画見たらあんな風になるよなって思った。子どもたちから言葉の意味を取り上げるためにたぶん本もテレビも絶対に禁止してる風だったし。父親のその狂った徹底っぷりは嫌ってほど描かれていた気がする。買ってきたミネラルウォーターから一枚一枚ラベルはがしていくシーンとかビデオデッキを狂気にするシーンとかで。父親がなんでそういう育て方をするようになった背景は最後まで描かれなくて、それも不気味だった。めちゃくちゃに歪んだ教育を受けても「家の外」が分からないとその異常さに気づかないって当たり前の話だけど、じゃあ普通ってなんなの?みたいな哲学。この映画の場合はその閉ざされた環境に持ち込まれた「家の外」がたまたま古い映画のビデオだった。最後家を抜け出すためにエグい試練乗り越えた長女の顔面が痛そうにしてんのにへらへら笑ってて、怖いやらカッコいいやら。

 

「ロブスター」

あらすじ
独身者であれば身柄を確保され、とあるホテルへと送られる世界。そこでパートナーを45日以内に見つけなければ、自身が選んだ動物に姿を変えられて森に放たれてしまう。そのホテルにシングルになったデヴィッド(コリン・ファレル)が送られ、パートナー探しを強いられることに。期限となる45日目が迫る中、彼はホテルに充満する狂気に耐え切れず独身者たちが潜んでいる森へと逃げ込む。そこで心を奪われる相手に出会って恋に落ちるが、それは独身者たちが暮らす森ではタブーだった。(以上、シネマトゥデイより)

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 独身を禁止する社会で主人公が右往左往するディストピアSF。「世にも奇妙な物語」チックなお話。一軒の家が舞台でいかにもこじんまりって感じの前作よりホテルとか動物とか森とかキャストとか露骨に予算増えたなあっていうのが連続して見るとなんか面白かった。近未来っぽい要素を「人を動物に変えるテクノロジー」一本に絞ってるのなんでなんだろう。あとは普通に現代と変わらない様子だったのにそこだけ変に浮いてる気がする。「籠の中の乙女」よりは素直に笑える部分が多かったけど、グロさ、エグさは似たり寄ったりだった。お兄さんが死ぬシーンはすごいな、と思った。あの会話の段階では冗談とかカマかけを期待して返事してたのに、血まみれの足を見せてすべてを分からせるあの演出超クール。ダメ押しであの洗面所のシーンと合わせて監督の徹底的に観客に嫌われようとするヒールっぷり突き抜けてた。共通点探しに固執してる描写が主人公とその周辺に何回も登場してその意図が気になった。鼻血を頻繁に出す体質の女性と仲良くなるためにわざと鼻血出す人とか、お兄さん殺した人も主人公がサイコパスのふりしたら一発で落ちたし、コンタクトレンズを確認する(あそこも相当性格悪い撮り方してて嫌だった)シーンもパートナーに無理やり自分を合わせようとする滑稽さを感じた。共通点がないと恋人でいられないことを死ぬほど皮肉ってるよね。かくいう俺も元カノにニコニコ生放送勧められたとき無理して「面白いね」って言ってたことがあってあんま笑えなかった。鼻血出す女の子が背泳ぎしてるシーンがエロくてかわいかったとか主人公たちが森で食べてる動物って元人間?とか独身レジスタンスのリーダーが不細工じゃなくて普通にだれとでも一緒になれそうな美人(調べたら「アデル、ブルーは熱い色」の人だった。全然気づかなかった。)だったのが意味深だったりした。この監督は徹底的に「普通じゃない」ことを描いてそっから「普通」を逆に際立たせるみたいなアプローチで映画作ってるのかな。筒井康隆の『笑うな』って短編集に「傷ついたのは誰の心」ってショートショートが載ってて、それは主人公が家に帰ると奥さんが警官に強姦されていて、それをやめてもらうように警官と押し問答する話なんだけど、めちゃくちゃな状況で普通に会話が続いてる気持ち悪さとかがあって、でも全体的にセンチメンタルで淡々としててなんか好きな話なんすけど、ヨルゴス・ランティモス監督二本立て観終わったらなんか読み返したくなりました。あと藤子・F・不二雄の「気楽に殺ろうよ」も思い出した。これは主人公が、性行為と食事の羞恥観念が逆転していて殺人が合法化されてるパラレルワールドに迷い込むって話でものすごく面白いです。

 

2本立て見に行った女の子からは当然のように連絡がこなくなりました。

ヨルゴス・ランティモスが傷つけたのは誰の心?

 

 

 

笑うな (新潮文庫)

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