コンテンツ化された苦悩

憎み憎まれて生きるのさ

23歳ニートの人生がダメになっていくドキュメンタリーです

ニートが女の子とHUBに行ったら大変なことになった話

 これは私のお話ではなく、彼女のお話である。
 役者に満ちたこの世界において、誰もが主役を張ろうと小狡く立ち廻るが、まったく意図せざるうちに彼女はその夜の主役であった。そのことに当の本人は気づかなかった。今もまだ気づいていまい。
 これは彼女が酒精に浸った夜の旅路を威風堂々と歩き抜いた記録であり、また、ついに主役の座を手にできずに路傍の石ころに甘んじた私の苦渋の記録でもある。読者諸賢におかれては、彼女の可愛さと私の間抜けぶりを二つながら熟読玩味し、杏仁豆腐の味にも似た人生の妙味を、心ゆくまで味わわれるがよろしかろう。
 願わくは彼女に声援を。

夜は短し歩けよ乙女』  森見登美彦

 

  最近、なんか人生が変になってる。どうしよう。変というのは新卒として入った会社を先輩が合わなくて2ヶ月辞めたり、長年付き合っていた彼女にありえないくらい長文LINEで罵倒された挙句にフラれたり、tinderで会った女の子に貸した舞城王太郎の『好き好き大好き超愛してる』を借りパクされたりといった俺に降りかかる一連の負のムーブメントのことなんだけど、ブログに書き出してみると全然大したことない感じがしてしまう。当事者の俺はこういった厄介ごとに直面するたびに、いろいろ本気で悩んでるけど、仕事辞めて再就職せずに半年もヘラヘラとニートをやっている時点で説得力ないか。大学まではごくごく一般的でまともな人間だったはずのに、どこで間違えた?何に躓いた?いつの間にこんなダメ人間になってしまったのか。

 

  仕事してないダメ人間のくせに一丁前に「女の子と遊びて〜」っていう欲望はあって、それがもう本当にめんどくさくて困る。「おいお前、何舐めたこと言ってるんだボケ。社会に参加できてない疎外感を女で埋め合わそうとか安直だし下品すぎてどうしようもねーな。お前みたいなクソニートを相手にする女子なんて世界中探したってどこにもいやしないんだよ」と自分に説教したい。どうすれば煩悩の炎を浄化できるのか。坐禅?滝業?ライザップ?そもそもそういうことはまず就職だの自立だの人間としてちゃんとしたレベルまで行った後の話で、まともから1番遠い場所にいるニートの俺には到底たどり着ける気がしない。「ダメな俺を丸ごと受け入れてくれる女子」なんて古谷実の漫画の中にしか存在しないのだ。諦めて粛々と孤独を噛み締め、一人きりで惨めな人生を歩んでいこう…そんな心境。働いてない分、他の人よりラクしてるのだから恋愛を捨てることで人生に対する帳尻を合わせていかないといけない。

 

  でも、ですよ。そんなことを思って全体的に諦めの境地に達した途端、あんだけマッチしなかったtinderがバンバンマッチするようになって正直ええ…てなった。なんで今更LIKE来ちゃうの。俺はもうニートに操を捧げた身なのに…頼むからこれ以上惑わすのはやめてくれ。悪魔よ、去れ。私は決してお前に屈しないぞ。と思わなくもなかったがせっかくなので屈した。ガンガン屈した。マッチしたあと実際に遊ぶ予定を女の子と取り付けてる時にまずダブルブッキング事件が起きる。同日に2人の女の子と予定入れてしまってI got 直下型ブレーンバスター まじヤバッてなった。なんで働いてなくて何の予定もないニートがスケジュール管理をミスるんだろう。とりあえず1日に2人の女の子と会わないといけないこの絶体絶命のピンチを会う時間をそれぞれランチと飲みに時間帯をズラすことで乗り切った。ニートにしては頑張ったと思う。

 

  当日、1人目のランチに会う約束した女の子とは俺が「どうしても食べたい」と言ったためにちょっとオシャレなハンバーガー屋でお昼をご一緒することとなった。女の子とのランチでハンバーガーをチョイスするセンス。そのハンバーガー屋さんはシェイクシャックっていうニューヨーク発のお店で、ハンバーガーにしてはややお高めだった。いや俺が食べたいと言ったのだけど。普通にポテトとチーズバーガーとレモネードだけで1500円くらいするんですよ?1人分で!ニート殺しの値段設定。この昼飯代だけで3日暮らせるわ。誘った手前しょうがないので女の子の分も払って、最初からべつに重くないどんどん財布が軽くなっていく。食べている間に色々話をするんですが、これがどうにも盛り上がらない。俺の渾身の「『パルプフィクション』のビッグカフナバーガーのシーン見ると絶対ハンバーガー食べたくなるよね」トークがダダ滑りしたせいかもしれない。シェイクが500円くらいだったから「5ドルのシェイクだぜ」って言いたかったけど通じなさそうだったからやめた。その後に、せっかくなので初詣に行こうかという流れになり神社で参拝しておみくじを引いて甘酒を飲んだ。人生で初めて甘酒を飲んだ。ちょっと引くほど甘かった。おみくじは吉だった。神社に行っている時も話が盛り上がりはしなかった。基本的に女の子に限らず初対面の人と話すの苦手なんです。1年に1回くらいしか本当の意味で話合う人と出会ってない気がする。

 

  初詣を終えたあと、このあとやることもないしじゃあさっさと解散しましょうかムードが流れて、特に反対する気も起きないのでその空気に乗っかって解散した。そのあとは次の女の子の待ち合わせの時間になるまで2時間くらい図書館で本を読んで暇を潰した。1日に2人の女の子と会う約束をしたのは初めてだったがまさか中盤にこんなブレイクタイムがあるとは思わなかった。図書館では長年探していた舞城王太郎の『SPEEDBOY』を見つけた。舞城王太郎の作品の中でもかなりブッとんだ設定の作品で、意味不明すぎてあれこれ考えながら読んでいるうちに1人目の女の子とのランチで凹んだメンタルも回復していった。よしイケるぞ、このままテンションのまま、2人目の女の子と飲みに行こう。緊張を隠しながら俺は待ち合わせの場所へと向かった。

 

  飲みにいくことになった2人目の女の人はメガネをかけたとても小柄な人で、都内の女子大の4年生とのことだった。低い身長と八重歯がどことなく小動物っぽい。ここでは2人目の女の子なのでフタコと記述する。まず最初に夕飯も兼ねてフレッシュネスバーガーハンバーガーを食べながらお酒を飲んだ。本日、2回目のハンバーガーだった。日頃からまともな食事を食べていないニートだったので1日に2度もハンバーガーを食べることになって胃がびっくりしてしまい、もうはちきれんばかりで苦しかった。俺はハイボールを2杯飲み、フタコはハイボールとビールを一杯ずつ飲んだ。話を聞くとフタコはどうやらかなりお酒好きらしい。ダラダラ食べて飲んで話し合ってるうちにハッピーアワーも終わって「二軒目どうしようか」と話し合った。ニートも学生もなるべく安い店のがありがたいのでまず鳥貴族に行ってみたが店のエレベーターの前に既に行列が出来てて「ちょっとこれは無理っぽい」となった。そこで、繁華街をふらふら歩いているうちに、2人の目にとまり入ることになったのがHUBだった。あの時、この店に入るのをやめていれば、後に起こる惨劇を防げたのかもしれない…

 

  一応説明すると、HUBはアホな大学生やナンパしに来た外国人の坩堝となってる英国パブ風の居酒屋で、悪い冗談みたいにアルコール度数の高いカクテルが置いてあることで有名なあそこです。店内は基本立ち飲みだけどあの日は禁煙席の角部屋みたいなところに案内されてフタコも俺もテンションが少し上がっていた。2階の外窓に面した席でかなりのベストポジション。繁華顔の大通りの人混みをゆったり見下ろしながら酒が飲めるなんてなかなか気分が良さそうだ。「まずなに飲もっか?」と俺が聞いた。「強いの」フタコが答えた。その男前すぎる一言にお前は西部劇に出てくる酒浸りのカウボーイなの?チャールズブロンソンなの?と思った。「大丈夫?ここの強いのけっこう強いよ」「大丈夫」「ほんとに?俺ここの飲み物のせいで死にそうになったことあるよ」「大丈夫だって」「じゃあどれにすんの」「これ」フタコが指差したのはタランチュラという度数27%のヤベー奴だった。いやこの人どんだけ攻めるんすか。なんなら1軒目のハイボール2杯で俺けっこう酔ってんのに、あなたもビールとハイボール飲んでたよね?ちょっとこんなの飲んだら俺死んじゃうよ、と思ったけどとりあえず俺もフタコに合わせてタランチュラを注文。おつまみはナチョスにした。「ハードウォッカにブラッドオレンジとピーチリキュール。飲みやすさ抜群のハードカクテル人気NO.1」という説明文に戦々恐々としながらまず一口飲んでみる。あれ意外とフルーティー…いや苦い?チョトマテ喉が熱いシヌゥ。っていう感じの味でした。ピーチリキュールの風味が完全にブランドオレンジとウォッカに負けてて悲しくなった。舐めるようにチビチビと飲む俺、その倍くらいのペースでぐいぐい飲むフタコ。めっちゃ強いですやんこの人なんなの。「そんな早く飲んで大丈夫?俺弱いから絶対そんな飲み方できないわ」「思ったより強くなかったから〜」なんて会話をしてるうちに完飲してた。だいたい20分くらいか。俺も10分遅れぐらいで飲み終わった。「飲むの遅くてごめんね。次何にしようか?」と訊きながら内心俺はかなり限界に近かった。なんならノンアルのカクテル飲みたい気分だった。肝臓にやさしい飲み物を身体が求めていた。フタコは答えた。

「今飲んだのより強いのがいい」

  そう言い放って選んだのはダイナマイトキッドというアルコール度数53%の酒だった。正直勘弁して欲しかった。一緒にいる女の子が自分より強い酒を飲んでいる状態になるのがなんとなく嫌だったので、しょうがなく俺もこのおそらくアホが考えたであろうダイナマイトキッドなるカクテルを注文した。「ハードウォッカに極上のパッションフルーツリキュールとグレープフルーツを加えた最強シューターカクテル」ショットグラスに入っててぱっと見だとすんなり飲めそうだったけどそんな生易しい代物ではなかった。一口目の半分くらいでアルコールが口の中を暴れ回る。大学の時これ2杯で記憶なくして品川駅で野宿することになったんだよな。あの時はホームレスにリュックサック盗まれて大変だったな…と嫌な記憶がフラッシュバックする味だった。説明文ググって今知ったけどグレープフルーツが入ってるのか。パッションフルーツウォッカが強すぎてグレープフルーツの味しなかったよ。銀河ヒッチハイクガイドに「汎銀河ガラガラドッカン」ていう宇宙一強いカクテルが登場した際に「この酒を一杯飲むのは、スライスレモンに包んだ大きな黄金のレンガで脳天をかち割られるようなものだという。」という説明がされていたけど、ダイナマイトキッドも大体そんな感じの味でした。

  タランチュラ以上に慎重に一口の4分の1ずつくらいをそーっと飲む俺。やはりその倍のペースで飲むフタコ。俺はもうフタコに対して尊敬を通り越して畏怖の念さえ抱き出した。こいつよう初対面の人の前でキツい酒ガバガバ飲むなあ。すごいなあ。全然顔色変わんないしやっぱ分解酵素が並外れてんだろうな、と。

 

ダイナマイトキッドはお互いゆっくり飲んだから大体30〜40分くらいで2人とも飲み終わったはず。それでも俺よりだいぶ早く飲み終わったフタコが「ちょっとトイレに行ってくる」と席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、同時に転びそうになっていた。その瞬間俺は全てを察して「オイオイオイ。この人めっちゃ酔ってる?もしかして」と思った。とりあえずまともに歩けなさそうなので肩を貸し、女子トイレまで誘導して歩いたけど、店のそこら中の人に体当たりせんばかりにヨレヨレでマイクタイソンにKOされたボクサー並みに足元が覚束なかった。さっきまでシャンとしていたのに、いつの間にこんな酔ってたんだろう。謎だ。俺が目を離した隙にこっそり混ぜ物の多い粗悪なヘロインでもキメたのかと思うほど、フラフラになっていた。フタコが他の客に体当たりをかますたびに謝る俺、フタコが占拠した女子トイレの前で心配そうに待つ俺、テーブルの上のグラスをいそいそと片付ける俺、店員さんに2週間ぶりに砂漠から救助された人のようにお水をもらいまくる俺。あの時間は他の客や店員から非難の目が突き刺さって地獄すぎた。そもそも俺が潰したみたいになってて気分悪いし、いや初対面の人のアルコール許容量なんて知らんわという。飲みたいと言われた飲み物を注文しただけなのになぜ俺はこんな状況になってるんだろう。俺が悪いのだろうか。

 

 俺の懸命の頑張りも届かず最後はHUBの女子トイレの前でvomitするフタコ。Love is over 吐くな女だろう。パンサー向井似のHUB店員と一緒に掃除をし、深々と謝罪しそっと店を出た。間髪入れず店の前でもフタコがまたThrow up。泣きたかった。死にたかった。なんなんだよこの状況。これじゃまるで「スタンドバイミー」のあのシーンじゃないか。しばらく外で介抱していたらヤンキーに絡まれて怖かったのでカラオケに行き、それでも帰れそうになかったのでラブホテルに泊まることになった。

 

  人生で初めてラブホテルに泊まったがフタコが本気で体調悪そうだったので谷崎潤一郎の小説に出てくる男並みにまめまめしく世話をした。フタコもポカリ飲んで風呂に入ったら酒が抜けたようで、一眠りして2人でホテルを出て駅で解散し、朝の10時ごろに家に帰った俺は16時半まで寝るのだった。

 

こうして俺の長い1日は終わった。

みなさん、お酒はほどほどに。