コンテンツ化された苦悩

憎み憎まれて生きるのさ

23歳ニートの人生がダメになっていくドキュメンタリーです

ニートが女の子にフラれた話をします。

貴方と過ごした全ての時間が無駄だった。
最低男。正直に言うけど、貴方みたいな臭くて不潔な人とは絶対にセックスなんかしたくないし、世界中どこを探しても、誰も貴方とセックスしたいと思う人なんていないよ。セックスしても、全然気持ちよくなくて、演技するのも疲れたし。臭すぎ。不細工。気持ち悪い。キスとか無理。
どうせ勉強したって、貴方みたいな人には公務員になんてなれないし、貴方みたいなやつが公務員になったとしたら、吐き気がする。底辺野郎。一生バイトしてろ。貴方といるとすごくイライラして疲れる。
私は、公務員の彼氏を作って、幸せな家庭を持って、貴方とは違って幸せな人生を送ります。
貴方にもらったものや借りたものは全て捨てる。削除する。本当に無駄な時間だった。最初から最後まで、本当に嫌いだった。一応キープしてたけど、もー貴方はいらないや笑。面倒。
ラインもブロックして削除するんで、もう私からはメッセージ読めないんで、一生関わらないでください。性欲だけで、愛情がない可哀想で下品な人。だいたいさ、あんたみたいなのと合う人なんていないよ。だって貴方は、相手の気持ちを考えることができなくて、自分は相手に合わせようと何も努力しないし、しようとも考えられないお粗末な人だから。
貴方とこの先付き合ったりする人がいるとしたら、その人が可哀想で仕方がない。だって無駄な時間を費やしてしまうんだから。
もう二度と、私の人生に微塵たりとも関わらないで下さい。さよなら〜😄

 

 人に「仕事を辞めた後に大学の時から付き合ってた女の子にフラれた。」 と話すとだいたいが俺に対する同情とか心配の前にまず笑ってくれる。仕事を辞めた事もずっと付き合っていた女の子にフラれたことも、どっちも俺にとってシリアスな苦難だったはずだけど、さすがに2ついっぺんに伝えるとある種の行き過ぎた感じがあってみんな普通に笑う。俺のしょうもない人生からの脱落が周りの人たちのささやかなエンターテインメントに昇華されて嬉しい。いやうれしくない。こっちは会社辞めて彼女に振られてんだよ。すべらない話がひとつできたくらいじゃ幸不幸のバランスがまったく取れてない。

 

  みんな仕事を辞めた理由の方を最初に聞きたがるので「なんでフラれたの?」と聞かれた時は、会社辞めた理由を話した後の疲れもあって説明するのダルくなって適当に「いやー金の切れ目が縁の切れ目ってやつですかね。仕事辞めたらスパッと愛想つかされてそれきりですわ」みたいに軽く切り上げてしまう。でもこれは正確な説明ではなくて、別れることになった理由を詳細に話していくと多分100%の人が「お前が悪い」って言ってくると思うからお茶を濁すために「金の切れ目が縁の切れ目」なる分かりやすい理由をでっち上げて話しているだけだ。

 

  本当のこと言うと無職になってすぐフラれたわけではなくて仕事を辞めた後も親身になって相談にのってくれたり気晴らしに遊びに行ったりした。彼女は俺に「がんばれ」とか「今はつらいだろうけど前を向いて」とかそういう言葉をかけてくれて、優しかったと思う。いつか何かの本で読んだけれど「金の切れ目が縁の切れ目」というのは甲斐性のなくなった男に女が失望して袖にするという意味じゃなくて、本当は甲斐性のなくなった男が変わらず接してくれる女に対して卑屈になってひどい扱いをしているうちに愛想を尽かされるという意味らしい。俺の場合もそういうケースに該当すると思う。

 

  彼女を初めて知ったのは大学一年生のサークルの新入生歓迎会の時で、あまりのかわいさにハートを鷲掴みにされ、その時は話しかけることもできず、居酒屋の遠くの方で彼女と先輩が話しているのを横目で見ることしかできなかった。仲良くなれたらいいなあと思っていたけどわりと人が大勢いるサークルだったのでなかなか話しかけるチャンスもなく、しばらく過ごしていたのだけど、死ぬほど押しの強い友達に協力を仰ぎ彼女の友達と彼女と俺と友達で映画を見に行くことになって、その時に地元がかなり近所だという情報を入手して「今度は2人で遊ぼう」的なことを言っていろいろ遊んでるうちに冬になって告白して付き合った。

 

  彼女は神聖かまってちゃんのファンだった。椎名林檎さねよしいさ子も好きだった。趣味はニコニコ生放送を見ること広い公園を歩くこととネット上のなんかポエマーみたいな人と文通することで、好きな漫画は浅野いにおの「おやすみプンプン」で好きな食べ物はかぼちゃのポタージュとたい焼き。初めてくれたプレゼントは「クレヨン王国 魔法のなつ」という青い鳥文庫の本だった。なぜかスニーカーを履くことを異様に恥ずかしがっていた。いい歳こいて「子猫のチー」という子供向けアニメに熱中していた。お菓子をよく作ってくれたけどあまり美味しくなかった。事あるごとに長い手紙を書いてくれた。

 

  大人しい外見とふわふわした喋り方をする彼女はその身の内に修羅を秘めていた。有り体に言えばメンヘラっぽい人だった。どことなく情緒不安定ですぐに怒ったり不機嫌になったり泣いたりする人で、デート中の会話において地雷を踏んでしまいダッシュで帰られることも珍しくなくて大変だった。1番焦ったのはディズニーシーでデートした時にダッシュで帰られた事で、帰ったっていうか舞浜駅で泣いてて、俺はものすごく対応に困った。とにかく気分の浮き沈みが激しい。高低差があり過ぎて耳キーンてなった。本当によく怒るのでストレス解消のため四六時中俺に対して怒る理由探してるんじゃないの?って疑うレベルだった。だが、俺は彼女という地雷原をひたすら突き進みつづけた。ダッシュで帰られた時はわざわざ彼女の1人暮らしをしているアパートの前で30分ほど許しを乞うたりした。今にして思うと俺もストーカーっぽくて怖い。まるでMOTHER2のサターンバレーの滝みたいだな、と思った。怒ってる女の子のアパートの前でドアが開くのひたすら待つのってある種の放置プレイではないか。でも、待っていると必ず彼女はドアを開けてくれるのでいつも俺は「どう機嫌を取ろうか」なんてことを考えながら安心して待っていた。

 

   彼女はよく「さみしい」とか「死にたい」と言っていた。それが口癖だった。2人で一緒にいる時にも「もう死にたい」ってよく言うので、最初の方は頑張って「俺がいるじゃないの」とか「君が死んだら悲しい」とかつまらないことを言って慰めていたけど結局いくら慰めてもそういうことをずっと言い続けているので後半は「またかよ」感がすごかった。俺も一回彼女の愚痴に本当にうんざりして彼女の家からダッシュで帰ったこともあった。不機嫌になったらダッシュする癖が移ってしまった。

 

  彼女は性的に淡白なタイプで付き合ってから最初の一年間はキスもしないようなそんな関係であった。俺も女子大生の1人暮らしのアパートという聖域に入りながら一年間もことを成せないヘタレであった。長く付き合ってそういう行為をするようになっても頻度はメフィストが刊行するペースくらいのものだった。俺としては少年ジャンプくらいが良かったのに、頑なにメフィストだった。せめてコロコロコミックくらいであって欲しかった。彼女の部屋や旅行で一緒に泊まっても添い寝するだけのことが多かった。俺は少しでも彼女の前でカッコつけたかったので紳士的な対応を心がけた。そういう時の俺は全自動添い寝マシーンになったと思い込み必死に煩悩を抑え込んだ。寝ている彼女の背中を後ろから抱きながら、ウディ・アレンの「アニー・ホール」では週3でも愚痴を言っていたのに…なんて思っていた。そんな大学生活だった。

 

  仕事を辞めた後、1週間くらい本当に死にたくなって困っていた時彼女から「いつまでニートするつもり?再就職どうすんの?」みたいなLINEが来て恥ずかしいことにその他人行儀な感じに耐えられなくて俺は泣いてしまった。仕事を辞めた彼氏に対して再就職の心配するのは分かるけど、死にたい時に将来のことを言われると俺は死にたくなってしまう。嘘でも気休めでもいいから「ゆっくりした方がいい」と言って欲しかった。だがいつまでもメソメソと寝ておれん、彼女に「死にたがってる奴にわざわざプレッシャーかけんな」と説教し、俺は自分の将来に1つの目標を掲げた。「公務員になる」と。なぜ公務員を目指そうと思ったのかと言うと彼女が公務員だったからだ。

 

  彼女、あんだけメンヘラっぽいくせにさらっと公務員一発合格してる凄い人だった。彼女ができるなら俺もという安直な発想で俺は公務員の予備校に入学した。よっしゃーやったるという感じで7月を過ごし、8月になって彼女が急に仕事の愚痴を言い始めた。ちょっと待ってよ。俺今からその仕事に就こうと勉強してんのにそういうこと言います?って感じになった。俺が仕事辞めた瞬間に再就職をせっつくほどドライな彼女が自分が辛くなった時だけウェットな同情を求めていることが気に入らなかった。ニートは仕事の愚痴とか聞けない。それに伴いただでさえ少なかったメフィストがブルータスのファッション特集並みの頻度になろうとしていた。働き始めてから彼女は「ごめん疲れててそういう気分じゃないの」っていうドラマみたいな台詞を言うようになった。付き合ってからそれまで断られるのも何十回目かだったけど、働いていない俺に対して当てつけでそんなステレオタイプの断り文句を言っているように聞こえた。俺のリュックサックの中には近所のHACドラッグで買った12個入りのコンドームが入っていた。その瞬間、なぜか俺は彼女の地雷原を避けるための今までビクビクしていた毎日が無性に情けなくなって、彼女の家からダッシュで自分の家に帰った後

 

「きみが性行為させてくれないならもうきみの家には行かん」

 

とLINEで送った。そうしたら冒頭の怒濤の長文LINEが送られてそのまま僕たちは終わった。

 

  送られてきた文章を読んで彼女はもしかしたらまた前のように俺がアパートの前で許しを乞うのを期待しているのでは、と思ったけど、それは俺が自分に対してうぬぼれているだけだと思い直した。大学生の時のようにアパートの前でドアが開くのを待っていたら最悪通報されてしまう。そして何より自分の経済状況では1人暮らししている彼女のアパートに行くための交通費(往復1700円)すら捻出できなくなりつつあることに気づいた。彼女に貸していた田島列島の「子供は分かってあげない」の事を考えた。おそらく読まずに捨てられてしまうのだろう。「高校生の男女の甘酸っぱい青春ストーリーですげー癒されるよ」とか言って貸したのにまさかおすすめした本人がこんな性欲まみれの俗人だったとは。

 

 

  彼女と付き合ってからの初デートは恵比寿リキッドルーム神聖かまってちゃんのワンマンだった。客層が死ぬほど悪くて本当に最悪だった。始まった瞬間人に揉みくちゃにされて速攻で彼女とはぐれた。満員電車の4倍くらいの暑苦しさだった。客同士のトラブルでなんかピリつく一瞬があったり、の子とmonoが殴り合って退場して一時中断するし、ちばぎんがMCで「こんなバンド嫌だ」って愚痴っていた。俺は神聖かまってちゃんに全く興味なかったので予習のためTSUTAYAでアルバムは借りたけど半分くらいしか聴いてなかったのでなんの曲かほとんど分からなかった。ライブの中断から戻ってきたの子は「死にたい季節」を歌った。その「死にたい季節」は俺が予習をした中でなんか良いなって思ってた曲だった。の子は泣きながら歌っていた。その日のライブで1番熱が入った曲だったと思う。一時中断で冷めていた会場が一気に爆発するようなそんな演奏だった。彼女もこの人混みのどこかで飛び跳ねているのだろうか。終わってからライブハウスの前で待ち合わせて一緒に帰った。やっぱ生はすごかったねと言いながら。

 

 あの日の演奏がYouTubeにアップされていて、その動画の中には見えないけどまだ付き合ったばかりの俺と彼女が大勢の観客のどこかで飛び跳ねているはずで、それは運命の不可逆性から自由になった恋の瞬間が時間が止まったみたいに保存されているようで面白い。

 

 

www.youtube.com

 

 

子供はわかってあげない(上) (モーニング KC)

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