コンテンツ化された苦悩

憎み憎まれて生きるのさ

23歳ニートの人生がダメになっていくドキュメンタリーです

元カノぼくが長期ニートしてたらどんな顔するだろう

  それならば、生存の孤独とか、我々のふるさとというものは、このようにむごたらしく、救いのないものでありましょうか。私は、いかにも、そのように、むごたらしく、救いのないものだと思います。この暗黒の孤独には、どうしても救いがない。我々の現身は、道に迷えば、救いの家を予期して歩くことができる。けれども、この孤独は、いつも曠野を迷うだけで、救いの家を予期すらもできない。そうして、最後に、むごたらしいこと、救いがないということ、それだけが、唯一の救いなのであります。モラルがないということ自体がモラルであると同じように、救いがないということ自体が救いであります。

文学のふるさと坂口安吾

 

 先日、23歳の誕生日を迎えた。と同時に青春が死んだ。

 もう成人しているのに甘ったれたことを言うと、大人になった実感がこの23歳という年齢に達しても微塵も感じられない。サラリーマンやっていた3ヶ月足らずもまるで何かの悪い夢のようであった。去年の6月に辞めてもう8ヶ月か。そりゃ忘れるよな。大人と子どもをどこで線引きするか、という境目は人それぞれだと思いますが、22歳から23歳になるのは俺にとって単純にひとつ歳をとっただけでなくて、大きな意味を持って迫ってくる。それは、「22歳まではなんとなく大学生ノリが許容される」という勝手な思い込みによるもので、大学四年生に迎えた22歳の青春の魔法が終わりをつげてしまったようなその悲しみに打ちひしがれて家でふるえています。勝手にふるえてろ

 

 誕生日の前の日、高校の時の友人と塚田農場で飲んだ。俺のほかに会社員と教員と院生の合計四人で。塚田農場は地鶏の炭焼きとかチキン南蛮がおいしいけどちょっと高い居酒屋さんで、大学生時代はあんまいったことなかったけど、社会人ふたりは「よし、塚田農場いくか」ってすんなり入っていて経済力の盤石さを見せつけられた気がした。いつも俺が行ってるのは鳥貴族とか一軒目酒場とか大学生が行ってるようなそんなところだったので、久しぶりの塚田農場はテンションが上がった。

 

 社会人なのに会社員と教員はわざわざ仕事終わりに俺の最寄りの駅まで来てくれた。「お前ニートなら交通費かかるのいやだろ」つって。女の子に会いに行くために往復5千円かけて静岡県いくようなニートなので、別に数百円程度は大丈夫だったけど、仕事終わりに家と逆方向の電車に乗って来てくれる友情にぶっちゃけ胸が熱くなった。こんな社会から全力でドロップアウトしたニートに会うためにわざわざ家と逆方向の電車に乗ってくれる人間なんて神かマザーテレサガンジーかって話。最高のホーミーに感謝。

 

 教員と会社員の二人が主に話すのは仕事の愚痴だった。新卒で入ってもう一年近く経ちちょっとずつ職場に馴染んでいて面白い上司の話や先輩の話を楽しげに語る。4月には後輩もできる。どうやらなんとか立派な社会人をやっているようだった。「おまえ最近なにやってんの」「家で本読んだり、漫画読んだり…」あゝなんだか俺ものすごくダメ人間みたいだ。まあ、ダメ人間なんだけどさ。院生はそろそろ就活が始まってめんどくさいというような話をしていた。理系の院生なので研究を活かした分野で働きたいといっていた。頑張ってほしいと思った。就活で大失敗した俺は就活のことなんて思い出すだけで心に深刻なダメージが残るね。特に協調性が終わっているのでグループディスカッションにメンタルをボコボコにされたの本当嫌だったな。負け犬の遠吠えかもしれないけど、俺はああいうところでテキパキ振る舞える人といっしょに働きたくないんだと思う。でも企業が欲しいのはそういう人材なんだろうな。

 

 みんな、いつの間にか「ちゃんとした大人」になっていた。

高校の時はあんなにバカなことしていたのに、どこでこんな社会性を身に着けたのだろう。摩訶不思議。高校のときイケてなくてあんま羽目外してなかった俺はなんで社会性を身に着けられなかったのだろう。彼らの「日々のめんどくささ」と戦っている強さが目をそむけたくなるくらいにまぶしかった。

 

なあ、お前と飲むときはいつも白木屋だな。一番最初、お前と飲んだときからそうだったよな。

俺が貧乏浪人生で、お前が月20万稼ぐフリーターだったとき、おごってもらったのが白木屋だったな。 「俺は、毎晩こういうところで飲み歩いてるぜ。金が余ってしょーがねーから」お前はそういって笑ってたっけな。

俺が大学出て入社して初任給22万だったとき、お前は月30万稼ぐんだって胸を張っていたよな。 「毎晩残業で休みもないけど、金がすごいんだ」「バイトの後輩どもにこうして奢ってやって、言うこと聞かせるんだ」 「社長の息子も、バイトまとめている俺に頭上がらないんだぜ」そういうことを目を輝かせて語っていたのも、白木屋だったな。

あれから十年たって今、こうして、たまにお前と飲むときもやっぱり白木屋だ。 ここ何年か、こういう安い居酒屋に行くのはお前と一緒のときだけだ。 別に安い店が悪いというわけじゃないが、ここの酒は色付の汚水みたいなもんだ。 油の悪い、不衛生な料理は、毒を食っているような気がしてならない。

なあ、別に女が居る店でなくたっていい。もう少し金を出せば、こんな残飯でなくって、 本物の酒と食べ物を出す店をいくらでも知っているはずの年齢じゃないのか、俺たちは?

でも、今のお前を見ると、お前がポケットから取り出すくしゃくしゃの千円札三枚を見ると、 俺はどうしても「もっといい店行こうぜ」って言えなくなるんだ。 お前が前のバイトクビになったの聞いたよ。お前が体壊したのも知ってたよ。

新しく入ったバイト先で、一回りも歳の違う、20代の若いフリーターの中に混じって、 使えない粗大ゴミ扱いされて、それでも必死に卑屈になってバイト続けているのもわかってる。

だけど、もういいだろ。十年前と同じ白木屋で、十年前と同じ、努力もしない夢を語らないでくれ。 そんなのは、隣の席で浮かれているガキどもだけに許されるなぐさめなんだよ。

 同級生たちに大きく引き離されていて、背中も見えないくらい置いていかれてしまったことをその飲み会で確認できた。もう白木屋のコピペを笑えない。というと劣等感爆発してるクソつまらない会みたいに思われるかもしれないけど、普通に楽しかった。塚田農場は名刺のようなポイントカードがあって通うとだんだんと昇進していくというシステムでなんかやっていて前行ったときに貰った塚田農場のカードは定期入れに入れっぱなしでぐちゃぐちゃになっていたけど、昇進すると昇進祝いにおつまみがもらえるらしいので、そのぐちゃぐちゃになったポイントカードを出した。課長になった。ニラと卵黄がトッピングされたピリ辛の冷ややっこのようなものをもらった。

 

 地元で飲む最大のメリットは、終電を気にしなくていいこと。そのことが嬉しくて調子にのってわけのわからない焼酎ばっか飲んでしまった。本当はあまり好きではないけど、焼酎が一番体に良いらしいので、なるべく焼酎を飲むようにしている。焼酎のせいで飲み会で何を話してたか全然覚えていない。「前会った時よりも痩せた」って言われた。うれしかったけど、「お金ないから食べ物あんま買えなくて」って言ったら「戦後かよ」とか言われた気がする。人と話すとき、結構緊張したりするほうだから、お酒飲んでどうでもいいことをベラベラ喋りたくなるようなあの感じが好き。

 

 飲み会が終わったのが日付をまたいで9分後くらいだったので、店を出て「俺実は今日で23歳になったんだ」と言ったら「オールしようぜ」ってなったけど、家の布団で寝たかったので3人を駅まで見送って電車で帰した。

 

 目黒シネマで正社員を募集してて、応募しようと思って履歴書を書いたけど、志望動機の作文を書けなくて結局断念した。「名画座で働けば映画いっぱい観れるかな」という浅くて薄っぺらい志望理由しか俺は持ち合わせていなかった。あと目黒シネマのTwitterアカウントが「応募者がたくさんいて、連絡にお時間いただいております」みたいなことつぶやいていて「そんなたくさんのひとからニートが選ばれるわけないな」と思ってしまったのもある。しばらくしたあとに目黒シネマのホームページを見たら正社員募集の告知がなくなっていて誰か受かったんだなあという気持ちになった。そんだけ。

 

俺のこういう非生産的生活はものすごく貴重な人生の一ページを無為に消費することで成立してる。受験生のとき塾の先生が「浪人すると人生で稼ぐ金の中から年収が一年分減る」みたいなことを言っていた。でも、ニート生活はお金で換算できない何かも確実に失われている気がしてならない。彼女にも愛想つかされたりだとか。

 

 彼女は別れ際に「お前は一生バイトしてろ」みたいに言っていて、そんなん言われたら「じゃ逆にニートやってやるよ」みたいな対抗心でここまでズルズル生きてきたけど、どうなんだ。そろそろスラムダンクの三井ばりにカムバックかますべきなのかもしれない。

 

 いろいろやらなくてはいけないこともある。ブログにあんま書いてないけど、公務員の専門学校に通っている。あまり勉強していない。仕事やめたあとに再就職したくなさ過ぎて彼女に倣って軽い気持ちで入ったから、フラれた瞬間にモチベーションが地に落ちた。こればかりは本当に自分でもクズだと思う。親にも申し訳が立たん。

 

「アリとキリギリス」でいうなら完全なるキリギリス側の人間。未来のことなんてどうでもいいと思って刹那的に生きていたらこういう状況。23歳になったら急に気持ちが落ち込んでしまった。こんなネガティブなことをブログにメソメソ書いている時点でダメなんでしょうけど。

僕が早熟を装って見せたら、人々は僕を、早熟だとうわさした。僕が、なまけものの振りをして見せたら、人々は僕を、なまけものだと噂した。僕が小説を書けない振りをしたら、人々は僕を、書けないのだと噂した。僕が嘘つきの振りをしたら、人々は僕を、嘘つきだと噂した。僕が金持ちの振りをしたら、人々は僕を、金持ちだと噂した。僕が冷淡を装って見せたら、人々は僕を、冷淡なやつだと噂した。けれども、僕が本当に苦しくて、思わずうめいた時、人々は僕を、苦しい振りを装っていると噂した。

 どうも、くいちがう。

『斜陽』 太宰治
 

 

 

イソップえほん (10) アリとキリギリス

イソップえほん (10) アリとキリギリス

 

 

ニートが女の子に会いに静岡に行った話

「影と『ドッペルゲンゲル』。私はこの二つに、月夜になれば憑かれるんですよ。この世のものでないというような、そんなものを見たときの感じ。――その感じになじんでいると、現実の世界が全く身に合わなく思われて来るのです。だから昼間は阿片喫煙者のように倦怠けんたいです」

 

Kの昇天――或はKの溺死』  梶井基次郎

 

 冬の魔物にすべての生きる力を奪われたせいで布団に閉じ込められてしまってこの2週間くらいひたすら寝て過ごした。雪が降ったりしていたような気がする。雪が降っているのをぼんやりと自分の部屋の窓から眺めていたはずなのに、その記憶すらもおぼろげではっきりしない。ひたすらに寒くて眠くて活動する気になれなかった。最近の生活は夢を見ている時みたいな時間がゆっくり流れてるんだか早く流れてるんだかよくわからないようなそんな感じでこれは、寒さから逃れるための逃避として常人とはかけ離れた集中力をもってひたすら睡眠に没頭したために脳の時間感覚を司る部位になんらかの支障がおきたのだと考えられる。俺は冬生まれなのに何でこんなに寒さに弱いんだろうか。そういえばもうすぐ誕生日がやってきてついに23歳になってしまう。ニートのまま23歳を迎えるとは思わなかった。子どものころに思い描いていた23歳はこんなじゃなかった。こんなダメ人間になるはずじゃなかった。冷蔵庫に入ってる萩の月を勝手に食べて怒られるような大人になるなんて。

 

 起きている間は、本を読んだりする気にもなれず、というより指一本動かすことさえ億劫だったのでずっとYoutubeをみていた。一日に30時間くらい見ていたせいで目がつぶれた。見ていたのはフリースタイルのバトルで、これは近年のラップブームに浅く乗っかってみようというミーハー根性のたまもので、ひたすらバトルの名勝負、名パンチラインのダイジェスト動画を視聴しまくっていた。面白いなあ。韻を踏むとか、リズムに乗るって人間の原始的な部分の気持ちよさを刺激するエンターテインメントだと思う。あとドラマ的っていうかキャラとキャラのぶつかり合いだとか、因縁とか下剋上とか敵討ちとかリベンジマッチとかそういう物語っぽい要素がぎっちり詰まってるので、笑えるし、泣けるし、熱くなれる。目の前で相手のことをディスるっていう行為の清々しさ。このSNS全盛の時代だからこそあこがれてしまう。単なる悪口の応酬がだんだん熱を帯びて会場をぐわっと盛り上げていく瞬間のカタルシスですよ。本当に勢いのあるラッパーが放つ渾身のパンチラインて動画越しでも分かるくらい場の空気を変えてて総毛立つほどシビれる。その空気が変わる一瞬を求めて布団の中でスマホ握ってラップバトル見続けてひたすらノッていた。そんな痛快エブリデイ。

 

 それと並行してtinderの女の子にはドタキャンされ続けていた。あまりにもひどいドタキャンのされ方に打ちのめされて人間不信になるかと思った。「私はあなたみたいなその辺のやつと違うから」とか言われて待ち合わせすっぽかされたりした。今思い出してもこの言い草には納得がいかない。そこまでかわいくなかったのに。ドタキャンに次ぐドタキャン。ドタキャンラッシュアワー。ドタキャンブーム。ドタキャンキャリーオーバー。あまりの断られっぷりにキレかかってる時に1人の女の子と出会う。

 

 静岡に住んでる女子大生なので、ここではお茶子と呼びます。お茶子さん、話した感じだとかなりtinderで遊んでる人らしくて、セフレが何人もいるそう。うわービッチだなあと思いつつ仲良くなるにつれて実はかなりの映画好きであることが判明して、俺のテンションが上がる。映画のこと話す時だけしかイキイキできないタイプの根暗なので、女の子が映画好きだとつい早口になっちゃうのです。で、LINE交換して色々話してるうちに、お茶子がなんかエロい写真とか急に送ってくるようになってちょっとビビる。セフレのために撮りためてたエロい写真が大量にあると言っていた。もうその時点で計り知れないポテンシャルを感じてしまった。世の女子大生はセフレのために自分のエロい自撮りを用意するのか。そんなけしからんことをやってないで勉強せい、と思ったけどありがたく頂戴した。

 

 そのあと色々会話しているうちに、直球の下ネタで申し訳ないんですけど、お茶子が「お前のジョニーが見たいから撮って送れ」とか言ってきて、これにはさすがにどうしようかと思って、確かにエロい写真を一方的にもらってる立場としては嫌だと言いづらいじゃないですか。で、「女の子が男のジョニー見たってしょうがないでしょう」「いや女の子もそういうの見たいから」という問答が延々と続き、執拗にジョニーの写真を要求してきたこの時点で、お茶子は美人局、或いはゲイのネカマなのではないかという疑惑が持ち上がる。でも、心のどこかでは純粋にジョニーを見たがってるエロい女子大生なのではないかという可能性も捨てきれずにいた。

私ははっとした。もしかしたら、何もかもオーギーのでっち上げじゃないだろうか? おい、僕をかついでいるのか、そう問いつめてみようかとも思ったが、やめにした。どうせまともな答えが返ってくるはずはない。まんまと罠にはまった私が、彼の話を信じた──大切なのはそのことだけだ。誰か一人でも信じる人間がいるかぎり、本当でない物語などありはしないのだ。

『オーギー・レンののクリスマス・ストーリー』  ポール・オースター

 結局、俺が押し負けた形で自分のジョニーを撮って送ることになるんですけど、世界一醜悪なセルフポートレートと言っても過言ではなかった。撮ってる間も「自分はいったい何をやっているんだろう」という問いが頭をよぎりそのまま虚無へ引きずり込まれそうになって危なかった。でも一応、構図とかライティングに気をつけて撮影した。謎のこだわり。いくら頼まれたからと言って会ったこともない人に自分のジョニーの写真を送るってその時点で犯罪になるんじゃないか。AV女優がTwitterで「知らん人からDMでジョニーの写真が送られてくる」なんて言ってたけど、送る人もわざわざこんな自らが虚無に引きずりこまれかねないことをよく自主的にしようと思えるな、と怖くなった。あと、もし本当に悪用されたら社会的に死ぬなという感じがあった。リベンジポルノ問題は国が総力を挙げて早急に対策に乗り出すべきだと強く思った。

 

 ジョニーの写真をお茶子に送ったら「ありがとう」とのメッセージが来たので「どういたしまして」と返信した。特にその写真についてはそのあと何も言われなくてちょっと切なかった。いや別に感想を聞きたかったわけじゃないですけど。

 

 そんなこんなやっているうちに「静岡こない?」と誘われて二つ返事で「行く」と言ってしまった。お茶子は一人暮らしなのでその家に俺を呼ぶということはそういうことなんだろうと思った。軽く「行く」と言ったが、俺の家は静岡行くのに電車で3時間くらいかかるほど遠い。急にニートが平日に外泊すると親が怪しむだろうと思って「高校の時の友達の家でスプラトゥーンやってくるから」という微妙な嘘をついて家を出た。そもそも1人で鈍行で県外に行くの初めての経験だったので結構ワクワクしていた。お茶子のバイト終わりが夜の10時くらいらしいので6時くらいに東海道線に乗り込んだ。

 

 夜の東海道線は最初はやや混んでいたが、だんだんと下っていくうちに人が減っていって、どことなく『千と千尋の神隠し』や『秒速5センチメートル』の電車のシーンみたいになった。神奈川の端っこにさしかかったあたりから外が真っ暗になって、闇の中を突き進む銀河鉄道に乗っているようなそんな気持ちになった。ニートがこんな夜に自分の住んでる家から遠く離れる電車に乗っている非日常に胸が高鳴ったけど、そういう気分も長くは続かず、ちょっと眠ろうと目を閉じたが東海道線のリクライニングが直角すぎてうまく寝れなかった。一時間半くらいして熱海で一回乗り換えることになって、乗り換えたけど露骨に車内広告が減って「田舎の電車だな」と感じた。さっきまで乗っていた東海道線より明らかに寒かった。隙間風がどこからか車内に吹き付けていて勘弁してほしかった。乗り換えてからまた一時間半くらいかかるので、暇つぶしにお茶子に貸すために持ってきた『ヒミズ』を読むことにした。それまでギャグ漫画を描き続けていた古谷実が初めてシリアスなストーリーに挑んだ傑作漫画で園子温が監督して映画にもなった。お茶子はこの映画版が好きらしい。俺はどちらかというと原作の方が好みだったので、久々に読み返すとあまりの面白さにのめりこんでしまった。ちょっとギャグが残っている1巻から2巻の中盤にかけての展開の落差が凄まじすぎていつ読んでもズシっと心に残る。なんとも言えない負のパワーを強烈に感じる。3巻から4巻はそこまで物語が大きく動くわけじゃないんだけど静かな絶望が感じられて良い。主人公の住田君は「普通になりたい」と常に願っている中学生で、親に捨てられたりヤクザに暴力を振るわれたりしているうちについに人生におけるジョーカーを使ってしまうんだけど、その使い方があまりにも悲しい。最後の終わり方なんてあまりにも暗すぎて映画版だと真逆に改変されてるくらいだった。あと映画版だと住田と同じ歳で漫画家目指しているきいちの存在が省略されてたような。あれも住田の境遇と対比させるポジションとして重要だったと思うので、「省略すな」と思った。きいちが漫画賞取ったあとに住田に報告するシーンが一番好き。その時の住田がものすごく痛々しいけど気高くて、かっこいいんです。

 

 一時間半くらいヒミズを読みながらダラダラと電車に乗っていたらお茶子の住む駅に着いた。駅員や降りる客も誰もいなくて、オカルト板によくある存在しないはずの駅にたどりついてしまったのではないかと心配になった。あと、静岡県って尋常じゃなく寒い。これでもしお茶子にドタキャンされていたら、確実に死ぬと思った。駅の周りにも何にもなくて、見渡す限り真っ暗だった。え?まだ夜の10時だよね。なんでこんな静かなの?怖い怖い怖い。携帯も寒すぎてバッテリーがぐんぐん減っていく。予備の携帯充電器も忘れてしまったのでここで電源落ちたら連絡取れなくなって大変だぞって思っていたけど待ち合わせ時間の10分後くらいにお茶子がやってきて、ほっとした。

 

 そのあとは家に泊めてもらって色々あったんですけど、それを書くにはあまりにも余白が狭いので省略いたします。次の日に「炭焼きレストランさわやか」っていうハンバーグ屋さんに連れてってもらったけど中が生焼けでびっくりした。

 

 

新装版 ヒミズ 上 (KCデラックス ヤングマガジン)

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新装版 ヒミズ 下 (KCデラックス ヤングマガジン)

新装版 ヒミズ 下 (KCデラックス ヤングマガジン)

 

 

ニートが劇場で「龍の歯医者」を見てきた話

デビュー作からのファンだけど別に発狂してないよ。
もともと「いーから皆密室本とかJDCとか書いてみろって」「ウンコパ〜ン、デ、デレッデ」ってよく言ってたし、
舞城王太郎に振り回されるのは馴れてるし。
こんな奴だけど好きなんだからしょうがない。
型に嵌らないのが舞城王太郎だしね。
プライベートは太田克史が支えればいい。
私達は舞城王太郎文楽=魂を支えるから。
その魂は私から子供へ、子供から孫へと受け継がれていくし、
そうやっていつか舞城王太郎のDNAと混ざり合うから。
それがファンと舞城王太郎とのEternalだし。

 

あらすじ
彼の国には龍が棲んでいる──
神話によれば、古の人々との契約により、龍は人を助け、人は龍を助けるという…
舞台は “龍の国”。
主人公は、国の守護神 “龍”を虫歯菌から守る新米・歯医者の野ノ子。
隣国との戦争が激化する中、ある日彼女は、龍の歯の上で気絶した敵国の少年兵を見つける。
少年の名はベル。
大きな災いの前に龍が起こすと言われる不思議な現象で、巨大な歯の中から生き返ったものだった。
自らが置かれた状況に戸惑うベル。そして彼を励まし、彼を龍の歯医者として受け入れる野ノ子。
激しい戦いに巻き込まれながら、二人はやがて自らの運命を受け入れて行くことに…

  

  舞城王太郎好きを名乗るからには、観に行かないわけにはいかないだろうと新宿のバルト9へ参上したのが最終日。もっと上映したての頃だったらでかいスクリーンで観れたのに最終日にもなると小さなスクリーンだった。くやしいけど、しょうがない。土壇場になるまで観に行くか迷っていたし。テレビで放映されたのを録画して何回も見てるのにわざわざ同じ映像を交通費かけて東京まで観に行く必要あるのか?俺はニートなのに、舞城王太郎の追っかけをしてる場合じゃないのでは。いや冷静になったらおしまいだ。舞城王太郎 a GO!GO!こんな機会はもう無いかもしれないし、ここで見なかったら一生後悔する。よし、行くか。新宿駅からバルト9に向かう途中、無印良品でアーモンドオイルで手の保湿をした。無印良品を見かけるたびにテスターのオイルで手の保湿をしてしまう習慣が俺にはある。手がしっとりしたので良い気持ちでバルト9にたどり着いた。新宿駅の映画館はシネマカリテか武蔵野館かピカデリーしか行ったことなかったのでバルト9はまだ未踏の地であった。チケットを見せてシアター入る前に入場者特典の色紙を貰った。最終日なのにまだ余ってるってよっぽど人が来てないのかなと心配になった。いざ鑑賞。何回も観ていた話だけど、劇場で見ると音響の迫力がすごかったので、元はとったなという感じがあった。

 

  せっかくなので、「龍の歯医者」の感想をひとつ書き残しておこうかなと思ったけど、あれこれ悩んでいるうちに一週間が経ってしまった。どうにも書きあぐねる。本編、何回観てもよく分からない場面とかあって、それについて解釈とかめたふぁーとかそういった小難しいことを書きたいなと思ったけど、頭が悪いからうまく文章にできない。好きなシーンの話とかします。

 

   DAOKOの「かくれんぼ」が流れてるところが好き。なりゆきで龍の歯医者やらされることになったベルがちょっとずつ歯医者連中と馴染んでいく雰囲気が絵から伝わってきてほほえましいったらないよもう。何回見ても多幸感がやばかった。ベルがかわいいんだ。ベルが。舞城王太郎の書くキャラでここまでヘタレキャラって珍しい?言葉抜きで登場人物たちの関係性、距離感が深まっていくの観客にそれとなく示せるのがアニメの良いところだなあと。曲の最後のほうで歯医者たちが並んで夕陽を眺めてるシーンの青春っぷりよ。もうマブダチやんけ。良かったなベル、となった。

 

  あと最後のベルが死ぬときのナレーションは舞城王太郎節が炸裂していたし、何よりベル役の声優の演技がすごかったとおもう。淡々と読んでいるのに心揺さぶられるというか。殺戮虫大暴れが作品のムードをどん底まで落としてからああいうナレーションを入れられると涙腺にくる。泣くわ。アニメなのに最後にドラマ部分にきゅっと落とし前つけるのが「言葉」っていう。舞城王太郎め、良いところかっさらいやがって。

 

  ベルの他に好きなキャラは佐藤修三か。最初当たりきついしすぐ憎まれ口たたくしうざい先輩感あるけど、ベルに手を差し伸べる場面とか見るに超面倒見良いやつ。最後の最後に漢見せるのがマジ兄貴。修三が死んだあとにベルが献杯で憤るのも良い。本編の中では少ししか描かれてなかったけどちゃんと君たち仲良くなっていたんだね、て思っちゃう。

 

  「龍の歯医者」初めて見た時、斬新だなーって思う部分とどっか懐かしいって感じる部分が両方あって、斬新だなと思ったのは龍の歯の中を死者の魂が通っていくって設定。まったく意味がわからない。なんで歯なんだろう。奇想すぎる。歯の中に入ると「キタルキワ」を知ることが出来るっていうのも面白い。死者の魂が通る歯の中に行くってことは一回死ぬのと一緒なわけでしょ。ベルみたいなイレギュラーな黄泉がえりであっても有無を言わせず歯医者に任命されるってことは「一回死ぬ」っていう行為が歯医者の仕事にどういう意味を持つのか。虫歯菌が死んだ人の感情が生み出した荒魂だとするとそれを退治するのに一回死んで蘇ったことによる霊的な力が必要になるとか?龍の歯医者の身体能力がやべーのも龍の近くにいると力を貰えるからっぽいし。あの変形する武器もなんなのだろう。あのままずっと働いてたらベルもあの武器もらえてたのか。前編の天狗虫を退治する所はまるでモンハンみたいに戦ってて面白かった。修三がシビレ生肉。

 

既存の作品を思い出してしまうような部分があちこちにあって、俺のなんとなくの連想かもしれないけどそこが懐かしかった。

そのうえで、「エヴァ」のファンのみなさん向けにひとつ。
野ノ子たち歯医者が日々退治している「虫歯菌」が出て来るのですが、その虫歯菌がちいさい「使徒」みたいなんです。味というか…「やっぱスタジオカラー作品はこれじゃなきゃ!」っていう要素がいっぱい出てきて。それは「エヴァ」の作風からつながっている感じがあって。たまたまなのか狙いなのかわかりませんが、ちょっと嬉しいですね。
虫歯菌がニュモニュモって出てきたら「待ってました!」って、ちょっとコアを探しちゃうような気持ちになりますよ(笑)。

夏目柴名 役
声優 林原めぐみ 

  林原めぐみさんはインタビューで虫歯菌がエヴァ使徒に似てるって言ってたけど、俺はエヴァっぽいとはそこまで思わなかったな。殺戮虫が暴れてる場面は旧劇みたいだったけどそれくらい。

 

千と千尋の神隠し

 泣きながらおにぎりを食べる所が似てると思った。異常な状況に陥って混乱してるのを食事がいったんフラットな状態にしてそっから感情が溢れてくるみたいな演出。超常的な存在を日常的な所作で世話をするっていう部分。それが「千と千尋の神隠し」はお風呂で、「龍の歯医者」は歯の掃除。あと歯医者の住んでる建物の感じがまんま千が寝泊まりしてた部屋に似てる気がする。大部屋で雑魚寝するあの感じとか。舞台は超ファンタジーなのに日々の生活にどことなく合宿っぽさがある。あと龍の歯が怪我したときに血がドバーッと出て歯をロープで支えようとするところとかも「千と千尋の神隠し」の腐れ神の自転車引っ張り出すシーンを思い出してしまった。ベルが千尋なのかな。

 

皇国の守護者

  漫画版しか読んでないのであまり詳しくないけど、龍と人とが契約してて、その契約が戦争に関わってくるという設定。日本とロシア風の国架空戦記であることとか。軍艦とか機関銃がある時点で「龍の歯医者」のが近代よりだけど。階級だけのボンボンが敵地のど真ん中で怪我人を世話してて逃げ遅れるっていうシチュエーションは共通してる。階級はないけど部下の心を掌握してるカリスマ軍人がそのボンボンを殺すことになるところとか。「皇国の守護者」漫画版だと龍はまったく戦争の手助けしてくれないけど、「龍の歯医者」だとガンガン軍事利用されてるな。背中に軍艦みたいなのが色々くっついてるし。龍の力ってなんなんだろう。ブランコたちが「銃が使えなくなる(暴発する)」みたいなこと言ってたけど、そんな便利能力あったらそりゃ強いわな。人の魂や死の運命を司る神様みたいな存在なのにかなり一方的に龍の国の人間が使役してる風なのが気になる。それも親知らずで契約してるおかげなのか。

 

 あとは、舞城王太郎の今までの作品の要素もわりと散りばめられてました。

ベルが言及する馬(舞城作品だと衝動とか生命力について語る時によく登場する気がする)とか柴名姉さんの「人は何かを選択しながら生きている」っていう台詞(『みんな元気』)とか光る虫歯菌(『好き好き大好き超愛してる』のASMA)とか、ああそう言えば『ビッチマグネット』で「人のゼロは骨なのだ。」という文章があるけど、「龍の歯医者」において死者の魂が行き着く場所が歯の中なのと関係があるのだろうか、など。

 

  1番気になったのはベルの拳銃が物語の要所要所で意味ありげに登場するのには、どんな意味があったのだろうか。「そんくらい考察しろよ」って言われてるみたいでくやしいけど、まったく分からない。ベルの最初の死によって失われた尊厳とか誇りとかそういったもののメタファー?だとするとせっかく取り戻したのに1番最後にポイっと投げ捨てられたのが悲しい。でも歯の中を通りすぎるときに重かったり要らなかったりしたものが遺品として歯から出てくるんだっけ。拳銃を取り戻したことが重要であって、拳銃自体はベルにとって余計なものだったてことかな。死体も消えて(これも謎。黄泉がえりだから?)誰にも死んだことに気づかれないベルが切ない。

 

 この街は悪疫のときにあって 僕らの短い永遠を知っていた

僕らの短い永遠

僕らの愛

僕らの愛は知っていた 街場レヴェルののっぺりした壁を

僕らの愛は知っていた 沈黙の周波数を

僕らの愛は知っていた 平坦な戦場を

僕らは現場担当者になった 格子を解読しようとした

相転移して新たな配置になるために

深い亀裂をパトロールするために

流れをマップするために

落ち葉を見るがいい 涸れた噴水をめぐること

平坦な戦場で 僕らが生き延びること

『THE BELOVED(VOICES FOR THREE HEADS』 WILLIAM GIBSON

 

 

「龍の歯医者」 Blu-ray 通常版

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ニートが女の子に断られた話と清涼院流水『ジョーカー』

 人は裸で 生まれた時は 誰も愛され 同じはずが
どうしてなんだ 生きていくうちに 運命は別れ むごいくらいだ

人の目見たり 見れなかったり 恋を知ったり 知れなかったり
それなら僕は いっそなりたい 死ぬまでベイビー 赤ちゃん人間

 

思うだけなら 王様なのに 見つめていれば 恋人なのに

どうしてなのだ 現実なんだ 真実さえ 必要なのか

笑いさざめく ふりしてみても 無理があるねと 言われた日には
僕はなるのさ それしかないぜ 死ぬまでベイビー 赤ちゃん人間

 

「踊る赤ちゃん人間」 筋肉少女帯

 

 前に知り合った女の子(フタコ)とは、ラブホテルに1泊したけど、お互いお酒で気分悪かったので何をするでもなく解散して、その後も連絡を取り続けているうちに、なんともう1回ラブホテルに行くことになった。信じられない。自分でもこんなスムーズに約束を取り付けられるとは思わなかった。もちろん今度は懇ろになるためにホテルへと行くのだ。何もできなかった前回とは違う。女っ気のまったくないニートだったのでホテル行けるなんて超嬉しい。tinder、ありがとう。フタコ自分で言うには性欲がかなり強い方らしい。最高かよ。「下着何色の着てってほしい?」「3回しようね」「ちゃんとその日まで我慢しといてね」なんてLINEがきた日には、ニート頑張っちゃうよね。緩みきった下半身の筋力を鍛えるためにすぐさま毎日スクワット100回を己に課し、それと同時に自己処理を封印、さらに亜鉛とマカのサプリメントを摂取してその日に備えることとなった。

 

   ラブホテルの下調べをしているとき、「いよいよ俺に運が向いてきたのだな」という確信が持てた。これは俗に言うモテ期というやつなんじゃないか。どうせならラブホテルは少しでもおしゃれなところがいいと考え、人生でこれ以上ないくらい真剣に調べた。卒論より真面目に資料集めたと思う。毎日飲んでいる亜鉛とマカは効果があるんだか、ないんだかよく分からない。飲まないよりは、飲んだ方がいいのだろうか。お風呂上がりに無印良品の化粧水(さっぱりタイプ)でちゃんと保湿をするようになった。荒れ放題だった唇をリップクリームで潤した。彼女にフラれてから、ストレスでささくれだらけになってしまった両手の親指もなんとか治した。「女の子はチョコを食べるとエロい気分になる」という都市伝説を信じて、ちゃんと美味しそうなチョコレートも買った。爪も念入りにきった。決戦はまもなくだった。連日のスクワットで太ももからお尻にかけてがキュッと引き締まった気がする。「いよいよだな」と太ももに話しかけた。「ああ、いよいよだな」と数日前より少したくましくなった太ももが答えた。

 

 待ちに待った当日の朝を迎え、待ち合わせ場所に向かう俺の心の中ではもう祝福の天使が舞い降り、ラッパをふき鳴らしていた。ハレルゥヤ!待ち合わせ場所は駅前のドトールだ。フタコはすでに待っていた。「お待たせ。寒いね」「うん、そうだね」「じゃ行こっか」「うん」と言って2人は歩き出した…と思いきやフタコがいきなり「ちょっとコーヒーでも飲んでかない?」と言った。確かにいきなりホテル行くのもあれだなと思い、ドトールに入って一杯だけコーヒーを飲むことになった。俺はブレンドのSを飲んだ。フタコはキャラメルラテ?なんか知らんけど甘そうなのを飲んでいた。2人でコーヒーを飲みながら話をした。俺は地元のスーパー銭湯でゲイに話しかけられて困った時の話をした。フタコは今度tinderで会うことになった女の子がレズかもしれなくて怖いという話をした。何やかや話もひと段落しお互いコーヒーも飲み終わり「じゃ行きますか」感が出たその瞬間、フタコが口を重々しく口を開いて言った。「ごめん、やっぱ今日きみとはそういうことできない」

 

 ええ…と思ったけど、どうやら話を聞くと「きみはもっと真面目な人だと思うから、こういう都合の良い関係はやめた方が良い」とのことだった。どっかで聞いたような台詞。『好き好き大好き超愛してる』の人にもそういうことを言われたような。俺が真面目?ニートなのに。ここで取り乱すのもかっこ悪いと思ったが、露骨に取り乱した。おいおい、と。こっちはホテル行く予定が決まった日から毎日スクワット100回してんだよ、と。そもそも俺が誘った時にノリノリでOKしたじゃないのと。君も「ホテルでたくさんしたいから自己処理しないで」とか言ったじゃないの。真面目に守った俺がうすら馬鹿のようだ。ホテルの予定が流れただけかと思いきやなんとそのドトールで解散することになった。今日の夜帰らないって言って家出たのに俺はどうすりゃいいんですか。もっと前に言ってくれれば1人で名画座行けたのに。言いたいことは色々あったけどとりあえず「ええ〜そりゃないよ〜」としか言えなかった。そう言うしかなくないか。

 

 ドトール出て駅で別れて、その後、フタコには世界で1番みじめで未練たらしいお別れのLINEを送り、もう一度別のドトールに入り直して今この文章を書いておるわけなのですが、人生ってやるせないな。昨日の夜は、クリスマスイブの夜の幼稚園児並みにドキドキして寝床に入ったのに、それが今日こんなに落ち込んでいる。本来の予定ならホテル今ごろあんなことやこんなことしていたはずなのに、なんで俺はドトールでブログを書いているんだろう。分からない。この数日間で得たもの、それは顔面や唇の潤い、ささくれのない指先、少しだけ引き締まった太もも、自己処理を封じたことによる行き場のないエネルギー、女の子への希望(後の絶望) 断られたことにはがっかりしたけど有意義だったことも多い。それにしてもこの一連のドタバタに、人生がダメになる大いなる予感を感じる。俺が女の子とホテル行けるなんて夢のまた夢だったのだ。俺をブログの執筆へと駆り立てるのはこういったマイナスのエネルギーが胸の中いっぱいに満たされたときなのだと気がついた。それは今日のように、女の子から性行為を急に断られたりした時だったり、あるいは清涼院流水の小説を読み終えた時だったりする。絶大な期待からしょうもない結末へといたる肩透かし感、胸の中でうずまくやるせなさ、思わせぶりな態度(文章)に対するどうにもならない憤り。そう、女の子にフラれるのと清涼院流水の小説の読後感は似ている!

 

  最近、読み終えたのは『コズミック』の後に書かれた『ジョーカー』という作品であります。コズミックが1200個の密室という大風呂敷を広げたのに対して、幻影城という舞台で繰り広げられるミステリ作家連続殺人事件を描いてるのでややスケールで見劣りしてしまう。事件は、「推理構成要素三十項」というものを制覇するためという目的が一応あって「推理小説構成要素三十項」というのは「ノックスの十戒」や「ヴァン・ダインの二十則」を踏まえて作中の小説家・濁暑院留水によって考案されたものだ。もともとこれは、ミステリの総決算のような作品を書くために登場したのだけど、作中の現実の事件がこの「推理構成要素三十項」に則って実現することで、ますます虚構内現実と虚構内虚構がごっちゃになるという効果がある。(作中人物も「この現実が小説なのではないか」ということをいちいち思い悩んだりする)そして事件が成就した際に、濁暑院留水の記録した作中の幻影城連続殺人事件のノンフィクション自体が、「ミステリの総決算」としてありとあらゆる要素を備えたミステリとなるわけなのだ。で、そうなると1番怪しいのはそれを考案した濁暑院留水なんじゃないのってなるが、このミステリの構成要素には「意外な犯人」という項目もあるので、怪しすぎるのは逆に怪しくない、ということになる。どういうこっちゃ。この連続殺人事件自体にも四大奇書黒死館殺人事件』・『ドグラ・マグラ』・『虚無への供物』・匣の中の失楽)の見立てが隠されていて…とかそんな感じ。いやあのこれだけは言わせてくれ、盛りすぎてわけわかんないことになってんよ流水先生。サイゼリヤのドリンクバーで全部混ぜて遊ぶタイプでしょあなた。

 

  JDCの探偵があまりにも役に立ってない。『コズミック』は密室の謎を解くことが解決に直結してるから良かったけど今回の『ジョーカー』は犯罪が最後まで完成してしまうので、後から「犯人はこいつです」って言われても手遅れ感がすごい。いやもうターゲットすべて殺されているからね。そもそもJDCの探偵たちも殺人事件を解き明かそうとして幻影城に来たはずなのにあっさり殺されたりしているし。もうちょっと頑張ってくれ。人が死んでいるのに推理対決なんて言ってる場合じゃないだろう。クイズじゃないんですよ。竜宮城之介。最初ちょっと頼もしかったのに後半情けなさすぎるんじゃ。暗号が得意なのに途中で諦めるんじゃないよ。霧華舞衣。お前はなんで第一班なんだ。螽斯太郎。何一つ解決に貢献していないだろ、探偵が殺人事件の最中に恋愛ごっこにうつつ抜かすな。九十九十九。さすがだな、けどもっと早く来い。毒で死んだ総代の息子。お前はただひたすら歩いてるだけか。切なすぎる。

 

 犯人が推理される度にどんでん返しに次ぐどんでん返しで変わり続けるので、ほぼ全員が犯人扱いされてるんじゃないか。そうなるともう意外性もヘチマもあったものではない。そして、1番最後のオチは何なんだという感じしかしない。根気強く読み続けた読者に喧嘩売ってんのか。『コズミック』には一応、めちゃくちゃにしても筋は通っていたけど、『ジョーカー』は犯人が型破りすぎる。俺のような初心者にとってミステリは動機が大事なんだよ動機が。コナン読んでても1番面白いのは犯人の動機が明かされるシーンだと思う派の俺にはあの投げやりな着地に納得できなかった。あと、犯人の残したサインを元に推理という構造自体が、「じゃあ犯人が最初からサイン残さなきゃJDCはお手上げなんじゃ」と思わせる。これは『コズミック』の時も思ったけど。前作の犯人にはJDCを謎に挑ませることに意味があったけど、今回はただ最初から最後まで芸術家のいいようにおちょくられ続けただけだったのでJDCがものすごくかっこ悪い団体みたいになってしまっている。あとこれは俺の勉強不足のせいだけれど、まだ四大奇書を一冊も読んでないので、「見立てが!」と言われても「ハア」ってなるだけだった。ミステリ読者なら読んでて当然みたいな前提で書かれていて恥ずかしかった。今度読みます。

 

 そもそも普通の感性をしていたら『コズミック』読んだら「次はもう良いかな」って気分になると思う。ならないほうがおかしい。俺だってブログで書くという目的なしに清涼院流水の本読みすすめる根性はない。デビュー作であれだけ破茶滅茶やった後に2作目書くのはそれなりに清涼院流水先生もプレッシャーがあっただろうによくここまでブレずに自分を貫けるな。読者の予想を裏切ることに全力を尽くしている執念がページいっぱいに刻まれている。四大奇書に並ぼうという野心が匂い立つメタミステリではあるが、いかんせんオチのつけ方が流水大説としかいいようのない珍妙なシロモノになってしまっている。読み進めたページ数と満足感が比例していない。でもこのがっかり感をあえて楽しもうとする器の大きさが流水大説の読者に求められる資質なのだろう。

 

 

ジョーカー (講談社ノベルス)

ジョーカー (講談社ノベルス)

 

 

ニートが女の子とHUBに行ったら大変なことになった話

 これは私のお話ではなく、彼女のお話である。
 役者に満ちたこの世界において、誰もが主役を張ろうと小狡く立ち廻るが、まったく意図せざるうちに彼女はその夜の主役であった。そのことに当の本人は気づかなかった。今もまだ気づいていまい。
 これは彼女が酒精に浸った夜の旅路を威風堂々と歩き抜いた記録であり、また、ついに主役の座を手にできずに路傍の石ころに甘んじた私の苦渋の記録でもある。読者諸賢におかれては、彼女の可愛さと私の間抜けぶりを二つながら熟読玩味し、杏仁豆腐の味にも似た人生の妙味を、心ゆくまで味わわれるがよろしかろう。
 願わくは彼女に声援を。

夜は短し歩けよ乙女』  森見登美彦

 

  最近、なんか人生が変になってる。どうしよう。変というのは新卒として入った会社を先輩が合わなくて2ヶ月辞めたり、長年付き合っていた彼女にありえないくらい長文LINEで罵倒された挙句にフラれたり、tinderで会った女の子に貸した舞城王太郎の『好き好き大好き超愛してる』を借りパクされたりといった俺に降りかかる一連の負のムーブメントのことなんだけど、ブログに書き出してみると全然大したことない感じがしてしまう。当事者の俺はこういった厄介ごとに直面するたびに、いろいろ本気で悩んでるけど、仕事辞めて再就職せずに半年もヘラヘラとニートをやっている時点で説得力ないか。大学まではごくごく一般的でまともな人間だったはずのに、どこで間違えた?何に躓いた?いつの間にこんなダメ人間になってしまったのか。

 

  仕事してないダメ人間のくせに一丁前に「女の子と遊びて〜」っていう欲望はあって、それがもう本当にめんどくさくて困る。「おいお前、何舐めたこと言ってるんだボケ。社会に参加できてない疎外感を女で埋め合わそうとか安直だし下品すぎてどうしようもねーな。お前みたいなクソニートを相手にする女子なんて世界中探したってどこにもいやしないんだよ」と自分に説教したい。どうすれば煩悩の炎を浄化できるのか。坐禅?滝業?ライザップ?そもそもそういうことはまず就職だの自立だの人間としてちゃんとしたレベルまで行った後の話で、まともから1番遠い場所にいるニートの俺には到底たどり着ける気がしない。「ダメな俺を丸ごと受け入れてくれる女子」なんて古谷実の漫画の中にしか存在しないのだ。諦めて粛々と孤独を噛み締め、一人きりで惨めな人生を歩んでいこう…そんな心境。働いてない分、他の人よりラクしてるのだから恋愛を捨てることで人生に対する帳尻を合わせていかないといけない。

 

  でも、ですよ。そんなことを思って全体的に諦めの境地に達した途端、あんだけマッチしなかったtinderがバンバンマッチするようになって正直ええ…てなった。なんで今更LIKE来ちゃうの。俺はもうニートに操を捧げた身なのに…頼むからこれ以上惑わすのはやめてくれ。悪魔よ、去れ。私は決してお前に屈しないぞ。と思わなくもなかったがせっかくなので屈した。ガンガン屈した。マッチしたあと実際に遊ぶ予定を女の子と取り付けてる時にまずダブルブッキング事件が起きる。同日に2人の女の子と予定入れてしまってI got 直下型ブレーンバスター まじヤバッてなった。なんで働いてなくて何の予定もないニートがスケジュール管理をミスるんだろう。とりあえず1日に2人の女の子と会わないといけないこの絶体絶命のピンチを会う時間をそれぞれランチと飲みに時間帯をズラすことで乗り切った。ニートにしては頑張ったと思う。

 

  当日、1人目のランチに会う約束した女の子とは俺が「どうしても食べたい」と言ったためにちょっとオシャレなハンバーガー屋でお昼をご一緒することとなった。女の子とのランチでハンバーガーをチョイスするセンス。そのハンバーガー屋さんはシェイクシャックっていうニューヨーク発のお店で、ハンバーガーにしてはややお高めだった。いや俺が食べたいと言ったのだけど。普通にポテトとチーズバーガーとレモネードだけで1500円くらいするんですよ?1人分で!ニート殺しの値段設定。この昼飯代だけで3日暮らせるわ。誘った手前しょうがないので女の子の分も払って、最初からべつに重くないどんどん財布が軽くなっていく。食べている間に色々話をするんですが、これがどうにも盛り上がらない。俺の渾身の「『パルプフィクション』のビッグカフナバーガーのシーン見ると絶対ハンバーガー食べたくなるよね」トークがダダ滑りしたせいかもしれない。シェイクが500円くらいだったから「5ドルのシェイクだぜ」って言いたかったけど通じなさそうだったからやめた。その後に、せっかくなので初詣に行こうかという流れになり神社で参拝しておみくじを引いて甘酒を飲んだ。人生で初めて甘酒を飲んだ。ちょっと引くほど甘かった。おみくじは吉だった。神社に行っている時も話が盛り上がりはしなかった。基本的に女の子に限らず初対面の人と話すの苦手なんです。1年に1回くらいしか本当の意味で話合う人と出会ってない気がする。

 

  初詣を終えたあと、このあとやることもないしじゃあさっさと解散しましょうかムードが流れて、特に反対する気も起きないのでその空気に乗っかって解散した。そのあとは次の女の子の待ち合わせの時間になるまで2時間くらい図書館で本を読んで暇を潰した。1日に2人の女の子と会う約束をしたのは初めてだったがまさか中盤にこんなブレイクタイムがあるとは思わなかった。図書館では長年探していた舞城王太郎の『SPEEDBOY』を見つけた。舞城王太郎の作品の中でもかなりブッとんだ設定の作品で、意味不明すぎてあれこれ考えながら読んでいるうちに1人目の女の子とのランチで凹んだメンタルも回復していった。よしイケるぞ、このままテンションのまま、2人目の女の子と飲みに行こう。緊張を隠しながら俺は待ち合わせの場所へと向かった。

 

  飲みにいくことになった2人目の女の人はメガネをかけたとても小柄な人で、都内の女子大の4年生とのことだった。低い身長と八重歯がどことなく小動物っぽい。ここでは2人目の女の子なのでフタコと記述する。まず最初に夕飯も兼ねてフレッシュネスバーガーハンバーガーを食べながらお酒を飲んだ。本日、2回目のハンバーガーだった。日頃からまともな食事を食べていないニートだったので1日に2度もハンバーガーを食べることになって胃がびっくりしてしまい、もうはちきれんばかりで苦しかった。俺はハイボールを2杯飲み、フタコはハイボールとビールを一杯ずつ飲んだ。話を聞くとフタコはどうやらかなりお酒好きらしい。ダラダラ食べて飲んで話し合ってるうちにハッピーアワーも終わって「二軒目どうしようか」と話し合った。ニートも学生もなるべく安い店のがありがたいのでまず鳥貴族に行ってみたが店のエレベーターの前に既に行列が出来てて「ちょっとこれは無理っぽい」となった。そこで、繁華街をふらふら歩いているうちに、2人の目にとまり入ることになったのがHUBだった。あの時、この店に入るのをやめていれば、後に起こる惨劇を防げたのかもしれない…

 

  一応説明すると、HUBはアホな大学生やナンパしに来た外国人の坩堝となってる英国パブ風の居酒屋で、悪い冗談みたいにアルコール度数の高いカクテルが置いてあることで有名なあそこです。店内は基本立ち飲みだけどあの日は禁煙席の角部屋みたいなところに案内されてフタコも俺もテンションが少し上がっていた。2階の外窓に面した席でかなりのベストポジション。繁華顔の大通りの人混みをゆったり見下ろしながら酒が飲めるなんてなかなか気分が良さそうだ。「まずなに飲もっか?」と俺が聞いた。「強いの」フタコが答えた。その男前すぎる一言にお前は西部劇に出てくる酒浸りのカウボーイなの?チャールズブロンソンなの?と思った。「大丈夫?ここの強いのけっこう強いよ」「大丈夫」「ほんとに?俺ここの飲み物のせいで死にそうになったことあるよ」「大丈夫だって」「じゃあどれにすんの」「これ」フタコが指差したのはタランチュラという度数27%のヤベー奴だった。いやこの人どんだけ攻めるんすか。なんなら1軒目のハイボール2杯で俺けっこう酔ってんのに、あなたもビールとハイボール飲んでたよね?ちょっとこんなの飲んだら俺死んじゃうよ、と思ったけどとりあえず俺もフタコに合わせてタランチュラを注文。おつまみはナチョスにした。「ハードウォッカにブラッドオレンジとピーチリキュール。飲みやすさ抜群のハードカクテル人気NO.1」という説明文に戦々恐々としながらまず一口飲んでみる。あれ意外とフルーティー…いや苦い?チョトマテ喉が熱いシヌゥ。っていう感じの味でした。ピーチリキュールの風味が完全にブランドオレンジとウォッカに負けてて悲しくなった。舐めるようにチビチビと飲む俺、その倍くらいのペースでぐいぐい飲むフタコ。めっちゃ強いですやんこの人なんなの。「そんな早く飲んで大丈夫?俺弱いから絶対そんな飲み方できないわ」「思ったより強くなかったから〜」なんて会話をしてるうちに完飲してた。だいたい20分くらいか。俺も10分遅れぐらいで飲み終わった。「飲むの遅くてごめんね。次何にしようか?」と訊きながら内心俺はかなり限界に近かった。なんならノンアルのカクテル飲みたい気分だった。肝臓にやさしい飲み物を身体が求めていた。フタコは答えた。

「今飲んだのより強いのがいい」

  そう言い放って選んだのはダイナマイトキッドというアルコール度数53%の酒だった。正直勘弁して欲しかった。一緒にいる女の子が自分より強い酒を飲んでいる状態になるのがなんとなく嫌だったので、しょうがなく俺もこのおそらくアホが考えたであろうダイナマイトキッドなるカクテルを注文した。「ハードウォッカに極上のパッションフルーツリキュールとグレープフルーツを加えた最強シューターカクテル」ショットグラスに入っててぱっと見だとすんなり飲めそうだったけどそんな生易しい代物ではなかった。一口目の半分くらいでアルコールが口の中を暴れ回る。大学の時これ2杯で記憶なくして品川駅で野宿することになったんだよな。あの時はホームレスにリュックサック盗まれて大変だったな…と嫌な記憶がフラッシュバックする味だった。説明文ググって今知ったけどグレープフルーツが入ってるのか。パッションフルーツウォッカが強すぎてグレープフルーツの味しなかったよ。銀河ヒッチハイクガイドに「汎銀河ガラガラドッカン」ていう宇宙一強いカクテルが登場した際に「この酒を一杯飲むのは、スライスレモンに包んだ大きな黄金のレンガで脳天をかち割られるようなものだという。」という説明がされていたけど、ダイナマイトキッドも大体そんな感じの味でした。

  タランチュラ以上に慎重に一口の4分の1ずつくらいをそーっと飲む俺。やはりその倍のペースで飲むフタコ。俺はもうフタコに対して尊敬を通り越して畏怖の念さえ抱き出した。こいつよう初対面の人の前でキツい酒ガバガバ飲むなあ。すごいなあ。全然顔色変わんないしやっぱ分解酵素が並外れてんだろうな、と。

 

ダイナマイトキッドはお互いゆっくり飲んだから大体30〜40分くらいで2人とも飲み終わったはず。それでも俺よりだいぶ早く飲み終わったフタコが「ちょっとトイレに行ってくる」と席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、同時に転びそうになっていた。その瞬間俺は全てを察して「オイオイオイ。この人めっちゃ酔ってる?もしかして」と思った。とりあえずまともに歩けなさそうなので肩を貸し、女子トイレまで誘導して歩いたけど、店のそこら中の人に体当たりせんばかりにヨレヨレでマイクタイソンにKOされたボクサー並みに足元が覚束なかった。さっきまでシャンとしていたのに、いつの間にこんな酔ってたんだろう。謎だ。俺が目を離した隙にこっそり混ぜ物の多い粗悪なヘロインでもキメたのかと思うほど、フラフラになっていた。フタコが他の客に体当たりをかますたびに謝る俺、フタコが占拠した女子トイレの前で心配そうに待つ俺、テーブルの上のグラスをいそいそと片付ける俺、店員さんに2週間ぶりに砂漠から救助された人のようにお水をもらいまくる俺。あの時間は他の客や店員から非難の目が突き刺さって地獄すぎた。そもそも俺が潰したみたいになってて気分悪いし、いや初対面の人のアルコール許容量なんて知らんわという。飲みたいと言われた飲み物を注文しただけなのになぜ俺はこんな状況になってるんだろう。俺が悪いのだろうか。

 

 俺の懸命の頑張りも届かず最後はHUBの女子トイレの前でvomitするフタコ。Love is over 吐くな女だろう。パンサー向井似のHUB店員と一緒に掃除をし、深々と謝罪しそっと店を出た。間髪入れず店の前でもフタコがまたThrow up。泣きたかった。死にたかった。なんなんだよこの状況。これじゃまるで「スタンドバイミー」のあのシーンじゃないか。しばらく外で介抱していたらヤンキーに絡まれて怖かったのでカラオケに行き、それでも帰れそうになかったのでラブホテルに泊まることになった。

 

  人生で初めてラブホテルに泊まったがフタコが本気で体調悪そうだったので谷崎潤一郎の小説に出てくる男並みにまめまめしく世話をした。フタコもポカリ飲んで風呂に入ったら酒が抜けたようで、一眠りして2人でホテルを出て駅で解散し、朝の10時ごろに家に帰った俺は16時半まで寝るのだった。

 

こうして俺の長い1日は終わった。

みなさん、お酒はほどほどに。

 

 

 

 

ニートが友達の家で年越したらキツかった話

やあ!みんな 聞いてくれるかい?

この世にはさ なりたくもないのに時々ね、暗ーくなっちまう奴っていうのがたくさんいてね 
随分面倒な目にあっているんだよ 
それは本当にやっかいでね 
オレもその一人だったんだ 
だからさ、俺はサーチライトになりたいんだ 
俺はポッケのないネコ型のロボットで何もできんのだけど 歌う事と、ものを書く事だけはできるのさ 
俺の歌とペンがサーチライトになるんだ 
俺みたいになるなよ お前は 
考えてやるのさ 
俺みたいになるなよ 
俺みたいになるなよ 
俺みたいにはなるなよ 
俺みたいにはなるなよ 

お前の前に細い 
しかし、しっかりとした道がある 
俺が照らすからお前が行け 
サーチライトは月の光と共にタイトロープを照らす! 
もしも、お前が落ちてくたばったってずっと照らし続けてやるよ 
だから行け さっさと行け 
なんとかなる なんとかなる 
なんとかなる なんとかなるからさ 

「サーチライト」 筋肉少女帯

 

 高校の時の友達で集まって、大晦日に年越しをしたけど辛かった。まず夜ご飯のピザ注文するときに何選ぶかに口出しできなくて具材がシンプルなやつ選ばれたのが辛かった。大晦日というハレの日に食べるんだからもっと冒険してる具材のピザがよかった。焼きたてのアッツアツのピザ持ち帰ってんのに「酒とかつまみを買わなきゃ」ってスーパー寄ったのが辛かった。酒とつまみを買った後に駐車券もらい忘れて取りに行ったり、駐車券もらい終わった後にロックアイス買い忘れて買い直したりするのが辛かった。それ終わって友達の家着いた後も皿とかコップとか用意するのに5分くらいモタモタしてるのが辛かった。皿とかコップ取りに行く前に「ピザ、先に食べてて良いよ」って家主の君が言ってくれなきゃ。冷めていくピザを4人でジッと眺めていたよ。食べる頃にはピザはすっかり生暖かくなっていて、俺は「自分の家で年越ししていればA4の肉ですき焼きだったのに」と思ってた。ほろ酔いのなんだっけ?味は忘れたけどほろ酔いを飲んだことは覚えている。

 

 チャンネル選択権が全くないのが辛かった。いつもは紅白4割ガキ使6割くらいのバランスで年末のテレビ見ていたのに、その日は何故かクイズが10割だった。紅白とガキ使見ないのは初めてだったけど家主の友達がそういうなら仕方なかった。あのクイズ番組、異常に難易度が高くて難しかった。当てずっぽうでしか答えられないから全然スッキリしない。そんなモヤモヤを抱えつつ、夜は深まっていった。佐野ひなこが出てて、かわいいなと思いました。大富豪に負けて罰ゲームでたらふくジンを飲んだ。コーラで割って飲み続けた。ジンコーラを作って半分飲んでコーラを入れてまた半分飲んでコーラ入れて…を永遠に繰り返す「カスピ海ヨーグルト」作戦でどうにか乗り切った。TVではコトブキツカサが珍解答を披露していて、こんな人でも映画評論家になれるなら俺もなりてーわって思った。

 

 執拗なニートいじりが辛かった。高校の時の立ち位置、本当に底辺で毎日激しくいじられてたけどそのノリが復活して地獄だった。高校卒業して5年も経ってるなら大人になっててくれ、そう祈ったけどニートというこれ以上ないほどのウィークポイントを持っていたせいで、がっつりいじられた。「ニート」「穀潰し」「親のすねかじり」「社会不適合者」「負け犬」「ザ・ドキュメンタリー」とかいろいろ言われた。男子高校生の時と変わらぬ切れ味でいじられたせいで心がズタズタになった。自虐ネタするのは平気なのになんで他人からいじられると悲しくなるのだろう。ニートは繊細だからあまり不用意にいじってはいけない。かと言って真剣に心配されるのも息苦しい。軽〜くいじってほしい。うっすらいじってほしい。あんまりガシガシいじられると痛いんだよ!心が。集まっているメンツが社会人ばっかだからか心なしかニートに対する風当たりが強かった。とにかく笑って受け流そうと思ったけど、悲しいのにわざわざ笑うのもめんどくさかった。「待て待て〜い!誰がニートチャーハン365や!」とか言って頑張った。スベった。ブスいじりされるキャバ嬢の気持ちがわかった。

 

 自分がニートであること自体は恥ずかしくないと思う。働いてる友達と自分を比較することで恥ずかしさが生まれる。他人と比べたらその瞬間にもう心の平穏は消え去ってしまう。だから、もっとニートである自分に誇りを持ちたい。誰の前でも胸を張って「いまニートです」と言えるような器の大きい男になりたいんだ。父親がもうすぐ定年だし、祖父母もだんだんと身体の調子が悪くなりがち。そんな状況でしかも長男なのに働かないってどれだけプレッシャーがあるのか分かってるんですか?世間の人は簡単にニートのことを「ダメ人間」だの「根性無し」だの好き勝手言いますけどね。ダメ人間であり続けるのも根性無しであり続けるのもイバラの道を裸足タップダンスするような苦行なんです。なぜかというとニートの人生は自分のことを認めてくれる人が1人もいない孤独な戦場なのだから。

 

 眠れないのが辛かった。毎年大晦日は12時回ったら普通に寝てたのに、俺以外全員「オールしようぜ」とか言って全然眠れねー。布団の所有者である家主が寝かしてくれないから何を言っても無駄だった。オールしたとしても眠ってない時点で何をやっても面白くないでしょ、眠いんだから。生粋のロングスリーパーに向かってオールさせるとか拷問なの分かってんのか。眠らなさすぎて何故かわからないけど膝が痛くなった。2時くらいに初詣行くかってなって近くの神社に足を運んだら誰もいなくて電気も消えてて鳥居の前でテレパシー参拝して初詣終了。もうこの辺から逆深夜テンションが発動してものすごく死にたくなって困った。家に帰ってトランプしたり、卒アル見ながら思い出話に花を咲かせ…って言いたいけど集まった5人の中で俺だけ高2の時同じクラスじゃなかったからほとんど会話に参加できなかった。高2の時なんてアメフト部に毎日タックルされてた記憶しかない。他の4人は「高2のクラスが高校で1番楽しかったなあ」みたいな口ぶりで話すもんだから俺の暗黒の思い出との落差に、死にたさマシマシ涙カラメで困りました。

 

 で、「酒抜けるまで時間潰して車で鎌倉に初詣行くか」みたいな提案が持ち上がった頃に帰ることを決意した。これ以上はもう限界だ。付き合いきれん。みんなアホみたいにお酒飲んでたから抜けるまでにはかなり時間かかるだろう。その上、鎌倉まで行った日には余裕で半日潰れる。このままダウナーな精神状況で1日半もまともな寝床で睡眠を取れないと多分死ぬ。一刻もはやく我が家にゴーホームしないと。そう考えてナビタイムで電車の始発を確認。5時か、となると4時半には友達の家を出ないといけない。友達たちが雑魚寝し始めた一瞬を見計らって流れるように家を出た。その時の緊張感たるやまるで「トレインスポッティング」のラストシーンのようだった。生まれて初めての友達との年越しは、俺の強烈な眠気によって強制終了することになった。さらば、友よ。俺のことは忘れて楽しく初詣に行ってくれ。そもそも俺はみんなでワイワイ騒ぐのが苦手な人間だったんだ。明るい調子で話合わせるのも無理をしてるみたいで辛いんだ。でも、誘ってくれてありがとう。2017年の終わりを君達と一緒に迎えられたことは俺の心のアルバムとブログにしっかりと残しておくから。

 

 友達の家から出たはいいが駅までの道がわからない。まだ夜明け前で真っ暗で人が誰もいない。微妙に田舎で、街灯があんまなくて暗い森が近くにあったりトンネル通らないと帰れなかったりして勘弁して欲しかった。冬の朝の4時ってあんなに寒いんだね。その辺に停まってる車のボンネットが凍っているもの。風がインナーダウンを貫通して俺の体を撫でて行くんですもの。気温低すぎるせいか携帯のバッテリーの消耗が著しくて、電源落ちるわで散々迷って駅に着く頃には指が取れてもおかしくないくらい寒さに陵辱されていた。始発を逃してしまったので始発の一本後の電車に乗った。家に着いた時は涙が出そうになった。俺の家!俺の部屋!大掃除終わってなくて嫌になるくらい散らかってる。仕舞う場所のない「真説 ザ・ワールド・イズ・マイン」「ヒメアノ〜ル」「げんしけん」「お天気お姉さん」「ZERO」「イエスタデイをうたって」「マルドゥック・スクランブル」「プラネテス」「黒船」が部屋の隅っこに積み上がってる愛すべき俺の汚部屋。友達の家から自分の家に帰ってきただけなのに人間的に一回り成長できた気がする。体が限りなく冷えきった状態で熱いシャワーを浴びると痛いんだよ。正月の朝からそれを実感するとは思わなかった。5分くらいぬるま湯で体を解凍してから徐々にお湯の温度を上げていった。生きていることをハッピーだと思った。シャワーを浴びてから布団に入るころになるともう、窓から見える東の空が白んでいて焦った。はやく寝なきゃ。

 

 

 

 

 

ニートがtinderで会った女の子に『好き好き大好き超愛してる』を借りパクされた話

傷ついてもかまわない
主導権を握りたい
完璧な肉体が欲しい
完璧な魂が欲しい

君に気がついてほしい
ぼくがそばにいないことを
君はあまりにも特別で
ぼくもそうだったらよかったのに

だけど、ぼくはクズだ
どうしようもないクズ
ぼくは一体何をしてるんだろう
ここはぼくの居場所じゃない

君を幸せにできるなら何だっていい         君が望むことなら何だって
君はあまりにも特別だから
ぼくもそうだったらよかったのに

「Creep」  Radio Head

 

 親が読んだら泣く記事を書きます。

 仕事辞めて彼女にフラれて人と会わなくなって生活圏にいる女性が母親だけになってしまった。彼女にフラれた理由は前にぐちぐちと書いたんですけど、雑に説明すると仕事辞めてやけっぱちになった俺が「セックスさせろ」ってしつこく言ったせいで、同じく仕事で落ち込んでた彼女がブチ切れて一切の連絡を断たれた。以上。こうまとめてしまうとお前ニートのくせに性獣だな、死ねと思われるかもしれないけど、そもそも大学時代の時から頻度が「午後のロードショー」で例えると「ランボー」シリーズが放送されるくらいの頻度(およそ3ヶ月に1回)だったので、いちいち数えるもんじゃないけど3年間合わせて累計十数回もしてないと思う。そこらへんの爛れた発情大学生と一緒にしないでほしい。しょうがなく俺は表面上紳士的な振る舞いを心がけていたが、健全な男子大学生としてはせめて「トレマーズ」シリーズかセガール沈黙シリーズくらい放送して欲しかった。最も暇でエネルギー有り余ってる大学生カップルが1人暮らしの家で遊ぶのに「トレマーズ」しないで一体何やってたんだよって思うじゃないですか。2人並んで「魔法少女まどかマギカ」や「子猫のチー」やニコニコ生放送を見たりしてました。「子猫のチー」はそこそこハマって自分でも録画するようになったけど、ニコニコ生放送がまた死ぬほどつまんなくて、わざわざ2時間かけて彼女の家来たのに何が面白くて人生詰んだニートどもの雑談聞かないといけないんだよって思ってたけど、まさか大学卒業してから自分がニートになってこんなゴミみたいなブログを書くとは思わなんだ。まあそんな感じだったので、彼女の家に行っても「トレマーズ」できないため俺のグラボイズは常に我慢を強いられてきた…。それと同時に彼女は彼女で本当に性欲がないみたいだったので「ランボー」も嫌々ながらというより出来ればやりたくなかっただろうけど俺がうるさいので我慢をしてきたんだと思う。そういった今までのお互いの不満が極限状況で爆発した結果の破局だった。付き合う前の、俺が彼女に一目惚れして純情片想いしてた時に「彼女に指一本触れないとしても付き合えるか?」って聞かれたら余裕でOKしたはずなのに、なんでいつの間にかこういう風な終わりを迎えてしまったんだろう。世の中には遠距離恋愛でも問題なく続いてるカップルは大勢いるはずなのに、不思議だ。

本当に好きだったらそういうことばっかしなくても平気でしょ

もしかしてあなたはそういうこと目当てにわたしと付き合ってるの?」

みたいなことを喧嘩のたびに言われた。そう言われるとこっちもそれ以上のことを求める気が失せた。別れた今となっては向こうからしてみれば俺は体目当てに付き合ってたのと一緒だもんなあ。俺が「トレマーズ」を諦めれば2人はもっと続いていたのか。眠れない日々がまた来るのなら…弾ける心のブルース。1人ずっと考えてしまう。

 

 3年間も一緒にいたのだから、忘れられない特別な思い出はたくさんある。卒業旅行は彼女が行きたがっていた「猫の島」に2人で行った。「猫の島」は愛媛県にある小さな島で、のら猫が百匹以上生息してるこの世の楽園のような場所だ。飛行機に乗って2人仲良く愛媛県に行った。松山城にも行った。鯛めしも食べた。「猫の島」は朝早くにフェリーに乗らないと行けなかったので4時におきて始発で予讃線に乗った。朝の松山は嘘のように寒かった。2人以外誰も乗ってない電車は夜明けを待たず動き出した。空がだんだんと明けていくのを2人で車窓から眺めた。「これから猫の島に行くんだね」と言いあって。電車は海の近くの林をゆっくりと走った。自分の住んでいる場所から遠く離れた朝の予讃線は現実じゃないようなシュールな感じがした。「つげ義春の漫画みたいだな」と俺は思った。車内は暖房が効いてなくて寒かったので2人で手を繋いだ。暇だったのでイヤホンを半分ずつにして彼女のiPhoneで音楽を聴いた。右耳だけつけたイヤホンからはっぴいえんどの「12月の雨の日」が流れた。夜明けに、はっぴいえんどを聴きながら女の子と手を繋いで海の近くの林を走る電車に乗っていた。なぜかは分からないが今までの人生で1番の多幸感に包まれた。「新海誠のアニメみたいだな」と俺は思った。その時その瞬間は何もかもが輝いていて俺は間違いなく幸せだったはずなのに。

 

 彼女から最後のLINEが来てから1週間後に「いつもごめん、今までありがとう」と送った。既読はつかなかった。多分本当にブロックしたのだろう。俺はなんとなく悲しかったのでブロックはしなかった。彼女と別れた後はささくれを剥く癖を止めてくれる人がいなくなってしまい、両手の親指がズタボロになった。録画した「子猫のチー」を何度も繰り返し見るようになった。YouTubeなかやまきんに君の動画を見てる時以外一切笑わなくなった。彼女の好きだった神聖かまってちゃんを聞かなくなった。ニコニコ生放送がさらに嫌いになった。ただでさえ出不精なのにもっと引きこもりがちになった。食欲がなくなって少しずつ痩せていった。貸したっきり帰ってこなかった「子供は分かってあげない」をBOOKOFFで買い直した。

 

 俺はもう女の子のことを好きになるのやめようと思った。別れるたびにこんな死ぬほど落ち込んでたらいつか死んでしまう。彼女に「性欲だけのかわいそうな人」と言われたのでいっそ本当にそうなってやろうと思った。俺に性欲がある限り女の子とうまく付き合えないのだったら、本能のままに生きてぺろっとわんこそばを食べるように女の子を抱くゲスい人間になろうと決めた。もう恋愛なんて不安定なものに心乱されたりしないと固く決意した。たしかなものは欲望だけさ。100パーセントの確率なのさ。

 

 女の子を抱くために早速tinderを始めた。大学と顔写真を登録してマッチングするアプリだ。男女お互いがLIKEするとメッセージのやり取りができるようになる。これで女の子と出会ってやりたい放題やってやる。マッチするために女の子の写真をひたすらスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプ…あれ、おかしい。指が腱鞘炎になるほどスワイプしてるのに全然マッチしない。俺の顔は全然女の子にLIKEされてないんだなと思うと虚しい気持ちになった。せっかく盛れてる写真をプロフィールに設定したのに。だが、「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」と思い寝る間も惜しんで片っ端からLIKEしていたら数件マッチできた。その喜びもつかの間の幻で、マッチした人にメッセージ送っても全然返事が返ってこない。現実でも電脳世界でも驚くほどモテなかった。映画と漫画しか趣味がないインドア人間だから?サンボマスター銀杏BOYZ筋肉少女帯を聴いてるから?人の目を見て喋れない根暗だから?仕事を2ヶ月半で辞めたニートだから?画面越しに負のオーラが伝わっているのかもしれない。心が折れてもうアンインストールしようかなと思ったときに1人の女の子と話がつき実際に飲みに行くことになった。

 

会うことになったのは都内に住む女子大生で、大森靖子が好きらしいのでここでは大森さんとする。

 

 渋谷で待ち合わせをして飲みにいった。その日は雨が降っていて傘を忘れた俺はせっかくセットした頭が濡れて台無しになった。大森さんは全身黒い服でやってきてカラス族のようだった。顔のパーツの一つ一つがシンプルで日本人形みたいな顔をしていた。ボブカットに顔色が悪そうなメイクを施していてヴィレッジバンガードで石投げたら当たるようなサブカル風女子だった。居酒屋に入ってお酒を飲みながら色々な話をした。俺が仕事を辞めるまでの話、彼女にフラれるまでの話を聞いた大森さんは「そんなんでよく自殺しないねウケる」と言った。確かに、と俺は思った。大森さんはtinderで出会ったセフレに好かれて困っているという話を延々としてきた。そのセフレは大森さんと会った後にTwitterの裏垢でポエムをつぶやくらしい。セフレの裏垢をわざわざ探す大森さんもどうかと思う。大森さんは女性なのにtinderに課金をしているモノホンプレイヤーだった。初対面の人と会ってセフレの話するんかいと思ったけど、わりと真剣に聞きいってしまった。大森さんはtinder課金勢だけあって沢山のセフレがいるらしく、人間関係が複雑だったので話を聞きながら頭の中で整理するのが大変だった。「でも前に別れた元カレともたまに会うんだよね」と言い出してオイオイどんだけ男と遊んでるんだよこの人は、お手上げだよこの野郎と思った。自分はそんな人に話すほど女性経験がなかったのでただひたすらハイボールを飲んで大森さんの話すセフレ談義に耳を傾けた。騒がしい居酒屋だったので、声が異常に通らない俺は話しても話しても聞き返されるばかりで、自然と大森さんの話を聞く方にまわっていた。「初対面でこんだけセフレいるアピールしてくるならワンチャンあるな」と思ったが、居酒屋のお金を払ったら財布がスッカラカンになってしまったのでその日は解散することになった。会う前にお互いのお気に入りの本を交換する約束をしていたので俺は舞城王太郎の『好き好き大好き超愛してる』を貸した。大森さんは江國香織の『ウエハースの椅子』と三浦しをんの『天国旅行』を貸してくれた。

 

貸してくれた2冊はなかなか面白かった。後日、読んだ本の感想をLINEで送りつつ 「今度ホテルいかない?」と誘ってみた。まさかあの根暗で奥手な自分がこんな軽率な誘い方をするとは恐るべし性欲。「いいよ」と返事が来た。一応男として見られたのが嬉しかった。飲んでる時は散々ニートだ社会不適合者だって馬鹿にされたけど。ああ、これで俺も見ず知らずの女の子と寝る村上春樹の小説の主人公みたいになるんだな、と思った。理性を捨て本能に忠実に生きるアニマルになってしまった。1週間後に会う約束を取り付けた。ついに俺は「ランボー」から「トレマーズ」に生まれ変わったんだ…。そうして、ゆくゆくはセガールに。こうなったら堕ちるとこまで堕ちていって正真正銘のダメ人間になってやるんだ。

 

 

 

 

 

 

と思ったら約束の日の前日に「ごめん、やっぱ無理」と言われた。大森さん曰く「ちゃんとした人間になってもらいたい」という理由らしい。いまいち納得できるようなできないような。たしかに俺は人間としてちゃんとしていないかもしれないけれど、そんな理由でセックス断られる奴ってこの世にいるのか?てかちゃんとした人間って何なんだろう。哲学だ。年下のセフレいる女の子にちゃんとした人間になれなんて言われてしまってものすごく恥ずかしい。俺のピュアハートはボロボロと音をたてて崩れていった。大森さんの断りの連絡を境に会話が終わった。『好き好き大好き超愛してる』読み終わったら感想くださいって言ったのにあれから1ヶ月経ってもなんの音沙汰もない。多分今も大森さんはtinderで男の人を探しているのだろう。(tinderのプロフィールが頻繁に更新されてるので)彼女とあと一歩のところで関係に踏め込めなかったのは、俺がちゃんとした人間じゃないせいだったのか。どうすればちゃんとした人間になれるのか。大森さんとの出会いは僕の心の深いところに多くの疑問を投げかけた。いつか大森さんも俺の貸した『好き好き大好き超愛してる』を読んで愛の大切さに気づいてほしい、そう強く思った。あとできれば早く本を返してほしい 。マジで。

 

 

 

 

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気持ちがレイムじゃモノホンプレイヤーになれねえ

 

 

トレマーズ (字幕版)

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